私が最初に西村公朝さんを意識したのは「NHK趣味悠々」で「西村公朝の仏の造形」というシリーズの講師を勤めておられた時のことだった。
聞き手に和泉淳子さん(能楽師で、狂言の和泉元彌の姉)と、日比野克彦さん(アーティスト)を迎えて、毎回親しみやすい形式で仏画や造形を指導。他にも仏の造形に関する様々な知識を、惜しみなく披露してくださる素晴らしい番組だった。
とりわけ、木材それぞれの個性を生かした木彫の指導は本当に素晴らしかった。あらかじめ予定した形に無理矢理木を彫り込んで行くのではなく、実際にノミを入れてみて木と対話しながら、繰り返しこまめに下絵を描き直し、荒彫りと墨線、淡彩色で仕上げていくスタイルは、まさに目からうろこ。
誰にでも可愛らしい仏像が作れてしまうノウハウは、円空や木喰のスタイルにも比肩し得る発明ではないかと思った。
私の母方の祖父は、大工で仏像彫刻が好きだった。幼い私は祖父の作品制作の様子を、横に座って眺めるのが好きだった。祖父の死後、祖父手製の彫刻刀を私が引き継ぎ、何体か仏像彫刻の真似事もしてみた。大工の祖父とは違って、木材や刃物に素人の私には木彫は難しかったが、西村公朝スタイルを学ぶと、仏の造形は本当に楽しくなった。もしかしたら私は、亡き祖父と西村公朝さんを重ねて見ていたのかもしれない。
その西村公朝さんも、平成15年に亡くなられた。
私の手元にはたくさんの御著書がある。いずれも仏像造形や仏教の様々な知識について、飾らず、平易に語った名著ばかりだ。今後も私は繰り返しこれらの本を開くことになるだろう。
数ある名著の中から二点、挙げておきたいと思う。