どんなジャンルにも言えることだが、その世界の「申し子」としか表現できないような、凄腕を持った第一人者と言うものは存在する。このカテゴリ「紙(カミ)」で取り上げた河合豊彰氏はまさに「おり紙の申し子」だし、切り絵のジャンルで言えば今回紹介する宮田雅之氏がそうだ。
●「宮田雅之の切り絵八犬伝」(平凡社別冊太陽)
宮田雅之氏の没後、追悼記念として発行された一冊。
氏の刀さばきが刻み込む妖艶な描線が「八犬伝」の世界と奇跡的にマッチして、ページを開けば凄まじいばかりの「怪しの世界」が繰り広げられる。
大胆な構図は動画を見るごとく、
規則的に刻まれた直線は建築物を見るごとく、
極限まで究めた省略は抽象絵画を思わせ、
流麗な曲線は無音の音楽を響かせる。
絵描きの端くれとして氏の作品を鑑賞すると、無駄な線を極力省く精神力に、つくづく頭が下がってしまう。
自分の腕を誇りたいのは絵描きの本能のようなもの。紙を切りつつ己の技をも断つような静かな気迫、なかなか真似できるものではない。
