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2006年11月12日

極楽往生源大夫4

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 高座上の講師は、進み出てきた僧の顔をしげしげと眺めた。寡黙で人付き合いが悪く、思い詰めたように経文ばかり読み耽っている変わり者だった。
 いったい何を思って自ら死地に飛び込もうというのか、まったく不可解であったが、わざわざ難物の相手をしてくれるというならば、強いて止める理由はない。変わり者なりに、何か余人には知れぬ理由でもあるのだろう。
 ひとしきり勿体をつけてから、講師は場を譲った。
「悪人よ、そなたの相手は私がいたす。何か聞きたいことがあるなら申してみよ。どのような問いにでも嘘偽りなく答えるであろう」
 源大夫はやや呆気にとられた面持ちで僧に対した。普段なら自分に対してこのような口をきく者は、即座に叩き潰す所だったが、予期せぬ展開に好奇心の方が先に立った。
 はじめは難癖をつけて講師を殴り、人々の面前で恥をかかせてやるぐらいのつもりだったが、ふとこの僧の説法を聞いてやってもよい気分になっていた。もしその説法が気に入らなければ、そのとき切り捨ててやればよいだけのことだ。
 ならば、と源大夫は切り出した。
「貴様ら仏弟子は仏法仏法と申してしきりに有難がり、他人に勧めもするが、我に言わせればそんなもの何の役にも立たぬ。これまで我は、仏法を信じると申す者を数え切れぬほど切ってきたが、一人として不思議なたすけのあった者はなし。我もまたなんの仏罰も受けておらぬ。しょせん仏法など、貴様らの飯の種に過ぎぬのではないか」
 人々は固唾を呑んで僧の答えを待つ。
        (続く)
posted by 九郎 at 20:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 中世物語 | 更新情報をチェックする