
寺から西へしばらく進むと、壁のようにそそり立つ断崖絶壁に行き当たった。その夜は岸壁の下で泊まり、朝を待った。
明るくなってから、僧は気力をふりしぼって岸壁に挑み始めた。源大夫の跡を追い続けて既に一週間が過ぎており、とうに体力の限界はきている。
物も言わずに岩肌にしがみつき、虫のように貼りつきながら登っていった。ようやくの思いで登りきってはみたものの、求める人影はそこにない。
しばしの休息の後、再び西へと進むと、さらに高く険しい峰があった。わずかばかりの体力を残らず使い切る思いで登ってみると、見晴らしのよい山頂に到着した。
精も根も尽き果てて座り込み、西を眺めてみると、海への素晴らしい眺望が開けていた。
そこには根元から二股になった大木が生えており、その股の部分に、見る影もなく痩せ、衰弱しきった源大夫の姿があった。
木の幹にもたれかかりながら、消え入りそうな声で「阿弥陀仏よや、おいおい」と呼ばわりつつ、金鼓を打ち鳴らしていた。
(続く)