中世陰陽師の百科全書「金烏玉兎」には、独自の創世神話が語られている。主に占術の内容を記述した本なので、神話を語る文章そのものの分量は少なく、記述も簡潔なのだが、当ブログではこれに焦点をあてて絵解きを試みたい。
「世界が始まる前」の状態をどのように描くかという部分には、様々な創世神話の特徴が出るので興味深い。「金烏玉兎」ではその様子を、天地未分の鶏の卵のような丸い状態であったと説く。
さらにその状態を、仏教でいう胎児の初期段階の言葉を借りて「最初の伽羅藍(かららん)」と表現する。擬人的に捉えているのは、この直後の世界が生じる描写に繋がる。
次の段階として、広大な天と地が一気に展開される様子が描かれる。ここでは「天は円形、地は方形」として捉えられている。
この「天は円形、地は方形」というイメージはアジアに広く存在するようで、仏教のマンダラの円と正方形の組み合わせや、日本の前方後円墳にも似ている。
このように展開された広大な天地に、一人の巨人が鎮座する。
「金烏玉兎」の主宰神とも言えるこの神の名は……
2007年04月27日
2007年04月28日
金烏玉兎の創世神話2
最初の伽羅藍から天地が開けたとき、そこに鎮座した巨人の名は「盤牛王(ばんごおう)」と言う。「金烏玉兎」では「盤牛王」の表記だが、中国神話では一般に「盤古(ばんこ)」と呼ばれる。
よく知られた図像では、微妙に角のようなものが見える平らな頭、木の葉の衣、胸の前に両手で太極図を構え、岩に座した異相の神で、今回はその図を元に「盤牛王」を描いてみた。
盤牛王は「宇宙そのもの」として表現されており、説明として使用される言葉は仏教の須弥山宇宙から引用されている。
丸い頭部は、最高位までを含む「天」
四角い脚部は、金輪際まで含む「地」
左手は、須弥山を囲む東の大陸
右手は、須弥山を囲む西の大陸
顔は、須弥山を囲む南の大陸
尻は、須弥山を囲む北の大陸
腹は、四つの海
胸は、須弥山に燃える猛火
左の目は、太陽
右の目は、月
呼吸は、季節の変化
吹き出す息は、風雲
吐き出す声は、雷
このようなスケールで重ね合わせて盤牛王の巨大さは説明されている。
盤牛王の原型である「盤古」の場合は、中国一地域の素朴な原始巨人伝説で、元はこのような須弥山宇宙観との習合は行われていない。原型を生かしつつ、当時最新だった宇宙観と結びつけて理論化が行われたらしい。
盤古は日本でも陰陽道の影響が強い一部地方などで、よく知られた神名だったらしい。現在の岡山県の一部にあたる地域に伝わる民俗芸能「備中神楽」には、「万古(ばんご)大王」というキャラクターが登場する。
「五行神楽」または「王子神楽」と呼ばれるこの演目は、万物を生み広めてきた万古大王が、その死期にあたって四人の王子と対話し、次に生まれてくる五人目の子の扱いをを巡って物語が進行して行くという筋立てだ。
この神楽のストーリーは、「金烏玉兎」の神話における「盤牛王」の五人の息子たちの物語とも相似したものになっており、陰陽道が民衆に与えた影響がわかる事例だ。
備中の国では江戸時代に金光教が登場していることも、一言メモしておこう。
よく知られた図像では、微妙に角のようなものが見える平らな頭、木の葉の衣、胸の前に両手で太極図を構え、岩に座した異相の神で、今回はその図を元に「盤牛王」を描いてみた。
盤牛王は「宇宙そのもの」として表現されており、説明として使用される言葉は仏教の須弥山宇宙から引用されている。
丸い頭部は、最高位までを含む「天」
四角い脚部は、金輪際まで含む「地」
左手は、須弥山を囲む東の大陸
右手は、須弥山を囲む西の大陸
顔は、須弥山を囲む南の大陸
尻は、須弥山を囲む北の大陸
腹は、四つの海
胸は、須弥山に燃える猛火
左の目は、太陽
右の目は、月
呼吸は、季節の変化
吹き出す息は、風雲
吐き出す声は、雷
このようなスケールで重ね合わせて盤牛王の巨大さは説明されている。
盤牛王の原型である「盤古」の場合は、中国一地域の素朴な原始巨人伝説で、元はこのような須弥山宇宙観との習合は行われていない。原型を生かしつつ、当時最新だった宇宙観と結びつけて理論化が行われたらしい。
盤古は日本でも陰陽道の影響が強い一部地方などで、よく知られた神名だったらしい。現在の岡山県の一部にあたる地域に伝わる民俗芸能「備中神楽」には、「万古(ばんご)大王」というキャラクターが登場する。
「五行神楽」または「王子神楽」と呼ばれるこの演目は、万物を生み広めてきた万古大王が、その死期にあたって四人の王子と対話し、次に生まれてくる五人目の子の扱いをを巡って物語が進行して行くという筋立てだ。
この神楽のストーリーは、「金烏玉兎」の神話における「盤牛王」の五人の息子たちの物語とも相似したものになっており、陰陽道が民衆に与えた影響がわかる事例だ。
備中の国では江戸時代に金光教が登場していることも、一言メモしておこう。
2007年04月29日
金烏玉兎の創世神話3
中世陰陽師の伝説の秘伝書「金烏玉兎」には、盤牛王という創世神の身体が、世界の万物そのものとして生まれる様子が描かれている。
盤牛王の持つエネルギーは龍の形でイメージされ、地上に展開される様々な地形の中に、姿を千変万化させながら潜んでいると説明される。例として、以下のようなものが挙げられている。
左・・・・・青龍の「川」
右・・・・・白虎の「園」
前・・・・・朱雀の「池」
後・・・・・玄武の「山」
大地に潜むエネルギーを「龍」として捉え、四方を聖獣で喩える点は「風水」の考え方にも通じる。元々陰陽道は中国起源の陰陽五行思想が、仏教説も交えて日本で成立したものなので、そこには当然「風水」も含まれ、第四巻には日本流に簡略化された家相説が解説されている。
現代まで続く家相の考え方には、金神などの根拠無き迷信も多いのだが、自然の地形と人間の暮らしの折り合いをつけるための知恵として、見るべきものは十分残っている。
2007年04月30日
金烏玉兎の創世神話4
古い形の中国神話では、原初の巨人・盤古は死して山脈になったと伝えられているが、「金烏玉兎」においては盤牛王の生死には触れられていないようだ。
盤牛王がどのような形でこの世に存在しているか、このカテゴリの種本である藤巻一保著「安倍晴明占術大全」より、そのまま引用してみる。
やや難解な文章だが、「梵天」「堅牢地神」「大日如来」などの仏教の概念を使用して盤牛王を説明している。この世界そのものである盤牛王の本地を大日如来にしてあるのは、真言密教の胎蔵曼荼羅を思わせる。
中国神話には様々なバージョンがあり、同じ神名でも物語が一定しないのだが、一説によると盤古は天皇(てんこう)を生み、天皇が地皇(ちこう)を生み、地天が人皇(じんこう)を生んだとされる。天皇・地皇・人皇を三皇(さんこう)と呼び、伝説上の帝王と考えられている。
上図は左から順に地皇・人皇・天皇の図を元にして描いたが、
「金烏玉兎」における盤牛王を活躍の場によって姿を変えるものと仮定すると、
天皇・・・・・大梵天王
人皇・・・・・盤牛大王
地皇・・・・・堅牢地神
と振り分けて図像を当てはめてみるのも「有り」かもしれない。(このあたりは神仏与太話、融通無碍なお遊びということで……)
ここまでの「盤牛王」についての神話は、陰陽五行の内の「陰陽」がモチーフになっていると思われる。
天と地、日と月、円と正方形のイメージは、つまるところ「陽と陰」が展開されたものだ。
そしてここからは盤牛の五人の子供たちの物語、「木・火・土・金・水」の「五行」が展開された「五帝五竜王」の神話が始まることになる。
盤牛王がどのような形でこの世に存在しているか、このカテゴリの種本である藤巻一保著「安倍晴明占術大全」より、そのまま引用してみる。
盤牛王が上の世界におられるときは大梵天王とお呼びし、下の世界に鎮座するときは堅牢地神と申し上げる。また、この神が迹不生であることをもって盤牛大王と名づけ、本不生であることをもって大日如来と称するのである。
やや難解な文章だが、「梵天」「堅牢地神」「大日如来」などの仏教の概念を使用して盤牛王を説明している。この世界そのものである盤牛王の本地を大日如来にしてあるのは、真言密教の胎蔵曼荼羅を思わせる。
中国神話には様々なバージョンがあり、同じ神名でも物語が一定しないのだが、一説によると盤古は天皇(てんこう)を生み、天皇が地皇(ちこう)を生み、地天が人皇(じんこう)を生んだとされる。天皇・地皇・人皇を三皇(さんこう)と呼び、伝説上の帝王と考えられている。
上図は左から順に地皇・人皇・天皇の図を元にして描いたが、
「金烏玉兎」における盤牛王を活躍の場によって姿を変えるものと仮定すると、
天皇・・・・・大梵天王
人皇・・・・・盤牛大王
地皇・・・・・堅牢地神
と振り分けて図像を当てはめてみるのも「有り」かもしれない。(このあたりは神仏与太話、融通無碍なお遊びということで……)
ここまでの「盤牛王」についての神話は、陰陽五行の内の「陰陽」がモチーフになっていると思われる。
天と地、日と月、円と正方形のイメージは、つまるところ「陽と陰」が展開されたものだ。
そしてここからは盤牛の五人の子供たちの物語、「木・火・土・金・水」の「五行」が展開された「五帝五竜王」の神話が始まることになる。