最初の伽羅藍から天地が開けたとき、そこに鎮座した巨人の名は「盤牛王(ばんごおう)」と言う。「金烏玉兎」では「盤牛王」の表記だが、中国神話では一般に「盤古(ばんこ)」と呼ばれる。
よく知られた図像では、微妙に角のようなものが見える平らな頭、木の葉の衣、胸の前に両手で太極図を構え、岩に座した異相の神で、今回はその図を元に「盤牛王」を描いてみた。
盤牛王は「宇宙そのもの」として表現されており、説明として使用される言葉は仏教の須弥山宇宙から引用されている。
丸い頭部は、最高位までを含む「天」
四角い脚部は、金輪際まで含む「地」
左手は、須弥山を囲む東の大陸
右手は、須弥山を囲む西の大陸
顔は、須弥山を囲む南の大陸
尻は、須弥山を囲む北の大陸
腹は、四つの海
胸は、須弥山に燃える猛火
左の目は、太陽
右の目は、月
呼吸は、季節の変化
吹き出す息は、風雲
吐き出す声は、雷
このようなスケールで重ね合わせて盤牛王の巨大さは説明されている。
盤牛王の原型である「盤古」の場合は、中国一地域の素朴な原始巨人伝説で、元はこのような須弥山宇宙観との習合は行われていない。原型を生かしつつ、当時最新だった宇宙観と結びつけて理論化が行われたらしい。
盤古は日本でも陰陽道の影響が強い一部地方などで、よく知られた神名だったらしい。現在の岡山県の一部にあたる地域に伝わる民俗芸能「備中神楽」には、「万古(ばんご)大王」というキャラクターが登場する。
「五行神楽」または「王子神楽」と呼ばれるこの演目は、万物を生み広めてきた万古大王が、その死期にあたって四人の王子と対話し、次に生まれてくる五人目の子の扱いをを巡って物語が進行して行くという筋立てだ。
この神楽のストーリーは、「金烏玉兎」の神話における「盤牛王」の五人の息子たちの物語とも相似したものになっており、陰陽道が民衆に与えた影響がわかる事例だ。
備中の国では江戸時代に金光教が登場していることも、一言メモしておこう。