生まれ変わったいざなみのみことは、あまりに長い時間がたっていたので、何もかも忘れてしまっていました。
ごく普通の人間として生き、結婚し、子供を育て、毎日忙しく働きました。
元はじまりの「ぢば」も、それとわかるものは何もなく、ただ田んぼや畑や人々の家が広がるばかりでした。
いざなみが人間としてくらして四十一年たったとき、月と太陽の月日親神が突然語りかけました。
「元はじまりから九億九万九千九百九十九年、やっと約束の日がきたぞ」
いざなみには何のことやらわからず、ただ戸惑うばかりです。
月日親神はいざなみに、九億九万九千九百九十九年の気の遠くなるような長い長い物語を再生して見せました。
記憶が少しずつよみがえります。
死に絶えても死に絶えても、何度でも辛抱強く産み直し、育て直してきた自分の可愛い子供たち……
いざなみの心に喜びが沸き起こってきます。
「ああ、なんと長い年月だったのだろう。私の子供たちは世界にこんなに満ちている」