ニュースを見ていて、河合隼雄さんの訃報を知った。著作の愛読者として、ただ哀しい。昨年八月病に倒れられてから、ご回復を祈念していたのだが。
氏の著作から個人的に思い入れのある一冊を紹介しておこう。
●「トポスの知―箱庭療法の世界」(河合隼雄, 中村雄二郎 著)
河合隼雄さんの著作には有名な本も多数あるが、この本は「箱庭療法」について具体的な事例や、実際の箱庭の写真をもとに紹介した一冊。
専門知識は無いので印象で紹介するしかないが、ともかく個人的に受け取った内容を書く。
この本で紹介される箱庭療法では、「医師が治す」のではなく、心の悩みを持つ人が箱の中の小さな世界を作る場に「医師が居合わせ」て、ともにその世界を体験することで新しい局面が生まれていく。
その過程は、時にスリリングで時に感動的だ。
箱の中の砂山に表現された世界は、たった一つの人形の位置を、ほんのわずかずらしただけで刻々と変化していく。
「こうすれば良い」という正解の無い中を、手探りで一歩ずつ関わっていく対話の在り方は、私のこだわる「絵を描く」と言う行為とも重なって、多くのことを考えさせられた。
手元に置き、何度でも読み返したい一冊。