写実っぽく描いているが、一枚の絵でわかりやすくまとめるために、かなり各部分の大きさの比率をいじってある。つまり、嘘が多い図だ。
さっそく「嘘が多い」と書いてしまったが、そもそも「須弥山」そのものが、現代科学的な意味では「嘘」という事になる。確かに天文学や地理学としての価値はもう現代では存在しないだろう。
しかし、人間の心の在り方を世界の構造に投影した模式図と考えれば十分検討に値する宇宙観だと思うし、何よりも「今昔物語」等の仏教説話を楽しむためには、大前提になっている世界観の知識は欠かせない。
仏教で伝えられる須弥山宇宙観では、各所の詳細な数値まで語られているので、今回はその数値になるべく忠実に描いてみたいと思う。

虚空の中に巨大の気体の円盤が浮かんでいる。
これを風輪という。
円周の長さは無数(という大きな数の単位)、厚みは160万由旬。
由旬(ゆじゅん)というのは長さの単位で、一説には約7km。
無数というのは10の59乗。
厚みも相当な数値だが、円周があまりに巨大であるため、全体が見渡せるほどの十分な距離をとり、斜め上方から眺めれば、上掲の図のような円盤に見えることだろう。
風輪の上には、下から「水輪」「金輪」「須弥山」そして何層もの「天」が重なっているのだが、風輪の巨大な円周のスケールに比べると、視認できないほど小さな規模に過ぎない。