学生時代のある夏、ふとしたきっかけで十津川村を訪れた。
十津川村は奈良県南部をたった一村で占める「日本で一番大きな村」だ。温泉地として知られるこの村の真ん中を流れるのが十津川で、この流れは下流になると熊野川と名を変え、熊野灘へと注いでいく。
川の両岸は山また山の連続で、国道168号沿いにポツポツと集落が点在するが、まずは秘境と言って差し支えない。
私がはじめて訪れた当時は、まだ熊野の山々は世界遺産に指定されておらず、観光地としてもそれほど知られた場所ではなかった。中世「蟻の熊野詣」の賑わいは時の流れとともに消え果てて、ひなびた静かな温泉地の風情しかなかった。「自然と信仰の癒しの場」としての場熊野が脚光を浴びはじめるのは、それから数年後のことだった。
この村に鎮座する「熊野の奥の院」と呼ばれる神社を訪れたことが、縁の始まりだった。以後私は毎年のように夏には「熊野詣」を繰り返すようになり、山中をさまようようになった。
熊野については語りたいことが多すぎて、なかなかこのブログでは書き出せないでいた。万全を期そうとすると、どうしても身構えは固くなり、筆は重くなる。
このままではいつまでたっても語りだせそうにないので、ともかくカテゴリ「熊野」をスタートさせてしまうことにした。
熊野詣に出掛ける前は、いつも畏れの心が起こる。
果たして今度も無事に歩き通せるものかどうか。
地形図上の密な等高線の重なりと、延々と続く細い破線は、道行の困難を予感させるに十分だ。
それでも一歩踏み出してみれば、なんとかなってしまうのもまた熊野なのだ。
断続的に、一歩ずつ、このカテゴリを進めて行きたいと思う。