梅の蕾も膨らみ、少し暖かくなったと思ったら、また寒さが戻った。
寒い夜道を身震いしながら歩いていると、思い出すことがある。
以前、私は風呂無しトイレ共同の安アパートに住んでいて、よく風呂屋のしまい湯に行っていた。近所の風呂屋は深夜十二時まで開いていて、寒い季節に帰って来ると、ちょっと湯冷め気味になった。
帰り道に神社の近くを通りかかると、よくワンボックスカーが停まっていて、たこ焼の移動販売をやっていた。
朱の暖簾と裸電球で、たった一台の車が小さな縁日の風景を作っていた。
その灯を見かけると、私はついつい立ち寄ってしまう。
顔馴染みになった大柄なおじさんが、「いつも店仕舞のいい時間帯に来るなあ」と笑いながら、よく売れ残りのたこ焼をいくつかサービスで入れてくれた。
トッピングで「どろソースを少々」が、私の好みだった。
どろソースはほぼ危険物レベルの辛さなので、あくまで「少々」にしておかなければならない。
しかし、暖に乏しい安アパートの夜には、ぜひともこのトッピングが必要だった。