「信太妻」
今から千年以上前のこと、和泉の国阿倍野に、貧しいが知勇に優れた若者が住んでいた。
ある日、若者が信仰していた信太の森の明神に御参りしていると、一匹の雌狐が傷つき追い立てられていた。
哀れに思った若者はその雌狐を助けてやった。
それからしばらくして、若者のもとへ美しい娘が訪ねてきた。すぐに二人は恋に落ち、夫婦になった。
やがて二人の間には男の子が産まれ、親子三人は幸せに暮らしていた。
ある日子守りに疲れた妻は、ついついうたた寝をしてしまった。するとどうしたことか、妻の姿はたちまち一匹の雌狐に変わってしまった。
彼女は昔、若者が命を助けた「葛の葉」という名の狐だったのだ。
正体を知られてしまった葛の葉は、そのまま一首の歌を残して去ってしまった。
恋しくばたずね来てみよ和泉なる
信太の森のうらみ葛の葉
若者と葛の葉の息子はその後立派に成長し、異常な力を持つ大陰陽師になった。
すなわち安倍晴明その人である。
以上が一般に「信太妻」と呼ばれる晴明伝説の概容である。
大阪府内にはいわゆる熊野古道沿いに、この伝説に関連する場所がある。阿倍野区の晴明神社と、和泉市の葛の葉稲荷神社だ。
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