2008年10月20日
図像覚書5 五秘密曼荼羅
【五秘密曼荼羅】
日本では真言密教でよく読まれる「理趣経」の曼荼羅図像。
中央の金剛薩た(こんごうさった)の周囲を、煩悩を表すと伝えられる四人の女尊が取り巻いて、一つの月輪の中に描かれている。
チベット密教に代表される後期密教の曼荼羅では男尊と女尊が抱擁した姿で描かれる例は多いが、日本密教では数少ない例の一つ。
金剛薩た(最後の文字はつちへんに垂)は「理想化された密教修行者」としての一面があり、この辺は「理想化された大乗仏教修行者」である菩薩の設定と似ている。
欲望を切り捨てるのではなく、ダイヤモンドのように堅固な心で悟りに向かうエネルギーに変換する密教修行者の姿。
理趣経で興味深いのは、そのお経が説かれた場面設定だ。
大乗仏教の教典では、それぞれのお経が説かれた場面はインドの聖地に設定されることが多いが、理趣経ではよりによって魔王の棲む第六天で説かれたと設定されている。
一説には、魔王調伏のためにその場面設定がなされたとされているのだ。
上掲図像は、流布された五秘密曼荼羅を参照しながら、独自に描き起こしたものなので、通常の図像とは違う部分もあるのでご注意。