童話作家の代表としての評価が定まった感がある宮澤賢治だが、正直言って、作品自体はそれほどわかり易いものではない。
今の子供に宮澤賢治の本を与えても、そのまま読むに任せて独力で読破できる子は少ないのではないだろうか。
物語としての筋立てがはっきりしたものばかりではなく、幻想的なイメージをそのまま書き記したような作品が多い。
そのことは賢治自身も自覚していたようで、存命中に刊行された唯一の童話集「注文の多い料理店」の序文にも、そのように明記してある。
青空文庫「注文の多い料理店」序
(前略)
ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
(後略)
また賢治は自身の詩について「心象スケッチ」という言葉を使っている。この言葉遣いからも、賢治は作品としての首尾一貫や創りの結構よりも、見たり感じたりしたイメージをそのままに書き記すことに力点を置いていたことがうかがえそうだ。
このカテゴリでは、謎の多い宮澤賢治の作品について、謎は謎のままに、私の感覚がいくらか賢治と同期したと思える点について、その心象をスケッチしていきたいと思う。
【宮澤賢治の作品について】
賢治の作品については著作権が失効しており、その多くが青空文庫で公開されている。また、入手しやすい文庫本も数多い。
中でもお勧めは以下の版。
●「注文の多い料理店」宮沢賢治 (角川文庫クラシックス)
賢治作品を収録した文庫本は数あるが、この一冊は賢治本人による唯一の自選童話集を、なるべく元の本に近い形で再現されている。当時の挿絵をそのまま使用しているのが素晴らしく、解説も充実している。
宮澤賢治の作品にふれようとする時、最初の一冊として一番お勧めしたい版だ。