現代の陶芸より低温で焼き上げるため、強度をつけるには「厚み」が必要であること。
しかし、粘土が肉厚になればなるほど、焼成時に内外の温度差から割れが生じやすくなってくる。その対策に、粘土に大量の砂を混ぜ、温度が伝わり易くしなければならない。そして砂を混ぜて粘りが弱くなった分を、ノリなどを更に混入して補わなければならない。
縄文土器の紋様は、一見ひも状の粘土を貼り付けたようなものが多く見える。しかし、砂やノリを混ぜた粘土をひも状にすることはけっこう難しいし、「貼り付ける」という手法は空気が混入しやすいので、よほど気をつけないと割れや剥離の原因になってしまう。
実際には「ひもを貼り付ける」より、「押し付ける」または「溝を刻み込む」手法の方が合理的であると理解できてくる。
肉厚の土器の表面全体に深く溝を刻んでみると、何も刻まない状態より表面積がかなり広くなる。そうすれば乾燥が速くなるし、焼いたときの温度も全体に上がりやすくなる。
「表面に丹念に紋様を刻み込む」という呪術を施すことにより、土器がうまく焼きあがる可能性がアップしてくることになるのだ。
縄文の生活は、それ以降の時代より場所の移動頻度が高かった。
土器を作るための土も、生活場所が変わるたびに質の違うものを使用しなければならなかっただろう。
土がころころ変わるということは、実際に手にとってこねてみるまでどんな造型が可能か判断がつきにくいということだ。
縄文土器のあのリズム感溢れる造型や紋様は、土をこねて感触を確かめながら、その場その場で即興演奏のように生み出されてきたのではないか?
ふとそんな空想も浮かんでくる。
それは縄文人の生活スタイルである、「出たとこ勝負の狩猟採集生活」にも相応しい制作風景だと思えてくるのだ。
