2009年06月06日

葛城の中世神話

 中世に創作された神仏習合の書の中に「大和葛城宝山記」という一書がある。
 冒頭に「行基菩薩撰」と表記されているが、実際には鎌倉時代後期に創作されたものであるらしい。
 ごく短い文書だが、大和葛城山周辺を舞台に、壮大な宇宙の開闢神話が展開されており、当時の宗教者達には重視されたようだ。
 中世の神仏習合の書らしく、インド神話の神々や仏教尊、日本神話の神々が複雑に読み替えられて登場し、葛城山脈の峰々が神話の舞台として紹介されている。日本の古都のほど近くに、世界の神々や宇宙と繋がる神話が伝えられていることになり、非常に面白い。
 特殊な文書だが、岩波書店「日本思想体系」に収録されているので、原典にあたるのにさほど苦労は無い。

 葛城は役行者の出身地であり、修験道の中心地だ。
 仏教・神道・儒教など、宗派の判然とした状態を見慣れた現代人の眼で見れば、修験道は正体不明の「ごちゃまぜ」宗教の代表のように受け止められやすい。しかし日本の宗教史上では、そうした「ごちゃまぜ」の神仏習合時代の方が遥かに長かった。そうでなかった時代の方が珍しい。
 とくに神道については、明治期にかなり人為的に「記紀神話」の内容にまで復古させた経緯があり、現在の「神道」の在り方が古来からずっと継続しているわけではない。
 葛城の信仰の歴史的厚みを理解するには、こうした中世神話をおさえておくことも必要だろう。



●「中世神話」山本ひろ子(岩波新書)
 中世神話一般を扱った入門書だが、「大和葛城宝山記」についても各所で触れて詳細な解説を施してある。「宝山記」はごく短い文書なので、中心的な内容についてはほぼ全て語られていると言って良い。その他の文書と関連付けられているので、中世神話の持つ世界観特有の傾向を掴め、理解しやすくなる。

●「神仏習合の本」(学研Books Esoterica45)
 以前にも一度、紹介したことがある一冊だが、「大和葛城宝山記」についても何箇所かで言及がある。
 図版が非常に豊富なので、当時の人々が中世神話についてどのようなビジュアルイメージを持っていたのか、よくわかる。

●「日本思想大系19 中世神道論」(岩波書店)
 今回紹介した「大和葛城宝山記」本文を読みたい場合はこの一冊。
 このシリーズは日本宗教の原典資料を探す場合、非常に重宝する。図書館に所蔵されていることが多く、古書店で探せばたまに安く見つかるので要チェック。
posted by 九郎 at 21:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 葛城 | 更新情報をチェックする