【大和葛城宝山記の創世神話】
まず冒頭で宇宙の原初の状態について、十方から「風」が吹き寄せ、相触れた状態で「大水」が保たれており、その水気が変じて天地となったと説かれている。
これはインド由来の須弥山世界の考え方における宇宙の下層構造、「風輪」と「水輪」を思わせる。
次にその水上に「神聖(かみ)」が化生し、その神は千の頭に二千の手足を持ち、「常住慈悲神王」と名付ける「違細」であると説く。
「違細」とはインド神話のビシュヌ神のことである。
そしてその神の臍から強い光を放つ千葉金色の妙法蓮花が生じ、花の中に結跏趺坐した姿で光輝く人神「梵天王」が存在したと説く。
「梵天」はインド神話のブラフマー神で、ビシュヌの臍から創造神ブラフマーが生まれる構成は、そのままインド神話から引用しているようだ。

冒頭と別の箇所では、常住慈悲神王は大梵天宮に居り、百億の日月と百億の梵天を作った三千大千世界の本主であると説かれている。
大きな世界の中に無数の小さな世界、百億の日月と梵天が存在するという宇宙観は、蓮華蔵の発想と近似している。