今の子供達の娯楽の王様が何になるのか、詳しくは知らない。やはりゲームが王道なのだろうか。
漫画、アニメ、特撮、ゲーム、全て私の子供時代には出揃っていたのだが、今と昔でランクが大きく変動したのが「プラモ」だろう。
私と同じくらいの世代の、特に男子の間では、娯楽の王様の位置は「ガンプラ」が占めていたはずだ。「ガンプラ」は言わずと知れた「ガンダムプラモ」の略。当時の男の子連中はこぞって欲しがり、プラモ屋の仕入れ日には早朝から長蛇の列ができ、開店と同時に激しい争奪戦が繰り広げられた。
子供向けの月刊漫画誌で「コロコロ」を追撃していた「ボンボン」ではプラモ制作をテーマにした「プラモ狂四郎」が連載され、毎号カラー特集でガンプラの作例&技術解説が掲載されていた。
私はすぐにガンプラに夢中になり、設計図(組立解説書)に従って組み立て、塗料で色を塗り分けた。
当時のプラモはプラスティックの成型色がせいぜい一色か二色程度しか無かった。「世界で一番売れたプラモデル」として記録に残っている「1/144ガンダム」の場合、組んだだけでは真っ白だった。
だからどんなに塗りむらだらけ、はみ出しだらけであろうと、とにかく塗った方がはるかにカッコ良くなるので、子供たちはみんな小瓶の塗料を何色も買い込んで悪戦苦闘していた。
図工が得意だった私は、同世代の中ではごく少数の「ガンダムの顔をはみ出さずに塗り分けられる」内の一人で、けっこう尊敬を集めたりした。
当時はブームの真っ最中だったので、専用の「ガンダムカラー」なるものまで発売されていた。「ガンダム世代」の中では低年齢層に属する私はシンナーを使用する模型塗料は親から止められていたので、水性塗料を混色して設定の色を再現することに努めていた。
ほとんどの色は再現できていたのだが、ガンダムのライフルやランドセルに使用される「ミディアムブルー」と言う色が、どうしても作れなくて壁にぶち当たった時期があった。
青味がかったグレーであることはわかるのだが、実際に「黒+白+青」で混ぜてみると「ちょっと違う」感じになってしまうのだ。
限られた小遣いで買い集めた塗料を空費し、途中からはスポンサー(親)から支給される水彩絵具での実験に切り替え、私の試行錯誤は続いた。
たまたまパレット上の赤が混じってしまった時に似た色ができ、ようやく私はミディアムブルーと言う色を「わずかに紫がかった青味のグレー」と認識できたのだった。
そうこうしているうちに、当時の私は身のまわりの色を全て「赤・青・黄・黒・白」の五色で分析して観る習慣がついてしまっていた。通常は中学美術で習うはずの色彩の仕組み(色相環・明度・彩度など)のを独自に研究・開発し、世の中の「色の秘密」を理解した気分になって興奮していた。
分析結果によれば、この世に「絵具のような鮮やかな色」は極めて少なく、ほとんどのものが「灰色の混じった色」であることがわかった。
灰色を基本としてそれに色彩を混ぜてできる「この世の色」と、オモチャなどの人工物に見られる灰色の割合の少ない鮮やかな色。
オモチャの色、ホンモノの色という二つの色のカテゴリが、私の中で出来上がっていたのだった。
そして前回紹介した「HOW TO BUILD GUNDAM」との出会いにより、「オモチャであるプラモにホンモノの色を塗る」という発想に至る事になった。
こうして少年時代の私は、色を使うことによってオモチャの世界で「現実感」を再現する、二つの別の世界を交錯させることの面白さを知りつつあったのだ。
●「HOW TO BUILD GUNDAM &2復刻版」(ホビージャパン)
ガンダムの三十周年記念があちこちで盛り上がる中、伝説のガンプラ解説本も復刻されるようです。
今読むとたぶん物凄く技術レベルが低く見えることでしょう。しかし、新しいジャンルが切り開かれつつある「熱」が、この本には充満しています。この一冊が現代の1/1ガンダム建立の原動力になったことは間違いありません!
同世代の皆さんはこの際「買い」でしょう!