荷物整理をしていたら、昔の作品が出てきた。
157o×226oのボードにアクリル絵の具で描かれた小品だ。
おそらく90年代後半頃の作品で、この時期初めて沖縄に行ったはずだ。
文化財調査のバイトで行ったので、一日中お墓や御嶽、拝所みたいなところを、地図を片手に歩き回っていた。
観光とは程遠い沖縄体験だったが、むしろ私は嬉々としてハブの出そうな藪の中に分け入っていた。
無造作に積み上げられた琉球石灰岩の拝所は、ガジュマルやその他の生い茂った植物に半ば飲み込まれていた。
下から積み上げた石の列と、上から垂れ下がったガジュマルの気根に縁取られた何もない空間に、もっとも何かの「気配」が感じられた。
その体験があってからヤマトの国に帰ってきてみると、神社仏閣を参拝する時の感覚が一変してしまった。
それまでは建物や神体になっている自然物に視線が行っていたのだが、沖縄体験を潜った後は、そうしたモノ自体よりも、モノに縁取られた空間の方に注意が向くようになっていた。
彫刻作品を観るときなんかも、モノの周囲の「虚」の空間が気になって仕方がなくなった。ヘンリー・ムアの凄みに気付いたのもそのころだったと思う。
この小品を雛型として、後にいくつかの絵(火の神、胎内潜り)を描くことになった思い出の一枚だ。
湿度と気温に蒸せる梅雨の日々に、沖縄をまた思い出す。