2010年07月12日

和船資料のラスボス

 安宅船、関船、小早などなど……
 水軍、海賊関係の史料を漁っていると、よく目にする船の種類の名だ。
 ではそれぞれの詳細な構造や、分類はどのようになされているのかという解説には中々お目にかかれない。
 和船というものそのものをテーマにした良い解説書は無いものか?
 前回の記事でもいくつか紹介してきたが、最後に「ラスボス」ともいうべき物凄い本を見つけてしまったのでご紹介。 


●「図説和船史話(図説日本海事史話叢書)」石井謙治(至誠堂)
 約400頁。百科事典のようなボリュームを「和船」というワンテーマで書き尽くした、まさに和船資料のラスボス的一冊。カラー白黒含めて図版もきわめて豊富。和船関係を調べていくと、誰もが必ず辿りつくのではないだろうか。戦国時代の軍船についても、極めて詳細に解説されている。


 この本がどのくらい詳しく広範な内容を誇っているかというと、たとえば戦国時代の船なら実在が確実なものはもちろん、地方の水軍書に断片的な記述が残されているだけの、実在には疑問符がつく特異な船についても、真正面から解説され尽くしていることに現われている。
 安宅船など、主要な軍船については後々このカテゴリでも紹介していきたいが、今回は試みにそうした「特異な和船」について、この「図説和船史話」を元に紹介してみよう。

【竜宮船】
umi-03.jpg

 この異様な姿の船は「野島流」という瀬戸内水軍の一派の伝書に記述された「潜水艦」という触れ込みである。一応戦国時代の書であることになっており、当時の日本人の発明の才を顕彰する意味で、戦中・戦後に賞賛された経緯もあるらしい。
 船の前後には竜頭が張り出しており、潜望鏡や通気口の機能を果たしている。その竜頭部分両方に舵が設置されていて、前後自由に航行することができたとされている。船の両舷側部には外車がついていて推進力を得ることになっているのだが、実はこの部分が最も問題とされて実在には疑問符がつく箇所だ。
 この人力による「外車」は現在でもスワンボート等に使用されているが、推進力を得るためには上半分が水上に出ている必要があり、この「竜宮船」が本当に潜水艦であるならば、完全に水中に没している状態では外車が使用不可能になってしまう。完全に水中で回転式の推進力を得ようとするならば「スクリュー」でなければならないのだが、元図は非常に稚拙なのだが、それでも構造的に「外車」でしかないことは確実だ。
 実在したとしても「半潜水」の船であったか、または元図自体が「将来的にはこんな戦術も考えられる」というアイデア・メモだったのかもしれない。

【亀甲船】
umi-04.jpg

 こちらは「全流水軍書」に記述されているという「亀甲船」の図から、独自に描き起こしてみた図。元図は写実性が弱く、「亀甲」部分がペタンと平面的に描かれているのだが、機能面から考えて「ドーム状である」と解釈して再現してみた。
 この「亀甲船」は上記の「竜宮船」とは違って、元々半浮上式の軍船として記述されているようだ。推進力は外からは隠れているが、船内に設置された「外車」で、前後の動きを自在にするためにこちらも舵が前後両方に表現されている。
 戦国当時の軍船の推進力は手漕ぎの櫓が主流だった。帆船形式よりも小回りが利き、戦術が組み立てやすかったからだ。
 手漕ぎではない「外車式」の利点としては、前後の動きの切り替えがスピーディーであったことが挙げられる。反面、人力では機動力に限界があること、波の高い時には使用が難しいことなどの欠点も多かったため、この方式が主流になることはなかったようだ。
 この「亀甲船」は「竜宮船」に比べるとよほど実在性のある軍船なのだが、実在したと仮定しても、一撃離脱型の夜間の奇襲など、限定された局面で活用されたのだろう。
 元図の「亀甲」部分は黒ベタ塗りで表現されているが、それこそ織田軍の「鉄甲船」のように、鉄板などを貼って防弾・防火処理がなされていたのかもしれない。


 他にも、とにかく「読んで面白い」エピソード満載の、強烈な和船資料だった。
 戦国水軍の装備が知りたい場合、一度は手に取るべき一冊だと思う。
posted by 九郎 at 00:41| Comment(6) | TrackBack(0) | | 更新情報をチェックする