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2010年11月01日

どんと6

 ここまで、極私的な視点からのどんとについて紹介してきた。
 10月の満月の夜から語り始めて、一旦語り始めてみると意外に長くなってしまった。

 私の断片的な記述で誤解を招かないように一つ確認しておく。
 2000年1月にどんとはハワイで37歳で亡くなったのだが、死因は医学的には「脳内出血」だということだ。
 だから、どんとの歌詞の中に、数年後の死を思わせるものが多数あることも、ただ「不思議である」としか言いようがない。
 若くしての死ということを考えれば、そこに至るまでに何らかの体調変化があったかもしれないとは思う。
 医者にかかるほどはっきりとした不調ということはなく、周囲にも何か伝えるほどのこともない微妙な体調変化を、鋭敏な感覚を持ったアーティストが無意識のうちに感じ取り、作品にそれが表われていたのではないか?
 そんな風に考えられなくもないが、あくまでこれは後付けの想像にすぎない。
 どんとの歌詞の世界には、かなり具体的な表現で死後の状況と重なるものも多い。
 先ごろ発行された小嶋さちほさんの著書によると、死の3か月前に書かれた、まだ作品化される前のメモには、ほとんど「予知」としか思えない内容も含まれていたという。
 ただただ、「不思議である」と言う他ない。



 どんとは多くの美しい作品、楽しい作品を残し、その作品にまつわる物語を体現し、私はそれを遠くから眺め、楽しんできた。
 しかしそんな傍観者である私には計り知れない思いが、身近な人々の中にはもちろんあったことだろう。小嶋さちほさんは著書の中で、葬儀が終わってからの自身の内面について、〈日常の地獄〉という言葉を使っている。
 そこに他者がさしはさむ言葉など、あるはずもない。



 ともかく、私は今後も折に触れてどんとの曲を聴き、考え続けることだろう。
 とくに「沖縄三部作」と呼ばれる、95年以降のソロ活動については、そう思う。


●ごまの世界
●DEEP SOUTH
●サマー・オブ・どんと実況録音盤 1998

 パフォーマーとしてのどんとは、顔も体格もけっこう日本人離れしていて、「異相」と呼べるカッコよさだったのだが、同時に繊細で知性的な面もあわせもっていた。
 沖縄での作品には「彼岸」を歌った作品が多数あるが、完全にあちら側に行ってしまっているかと言うとそうでもなく、こちら側からの視点と混在したものが多い。
 この世の価値感を超越してしまっているものもあるが、どこか「この世の出来事」を愛でて懐かしんでいる雰囲気が漂っている。
 ライブの形でファンが参加できる追悼行事もあるが、真宗式の葬儀を受けて、戒名もある。
 私の思うどんとの魅力は、そうした「境界をまたにかける」自由さだ。

 小嶋さちほさんの著書の「虹を見たかい?」というタイトルは、どんとの作った美しい曲のタイトルでもある。
 私もあの懐かしい海岸で、何度も虹を見た。
 ほとんど行くたびに見ていたような憶えがある。
 元々海岸や河川敷のような水と陸の境は、虹の出やすい地形ではある。
 水と陸をつなぐ場所には、天地をつなぐ橋もかかりやすい。
 また、海岸や河川敷は、市が立ち、人や物が交流する場所でもあり、芸能が生まれる場所でもある。
 どんとの曲を聴いていると、そうした場所に足を運びたくなるし、そうした場所で空を眺めたくなってくる。

 そういうことだったのか。



 ここ2年ほどあの海岸のお祭りに行っていない。
 またいつか、虹を見に行きたい。
(「どんと」終 レビューに続く)
posted by 九郎 at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | どんと | 更新情報をチェックする

2010年11月02日

2010年11月の予定

【10月の予定】
 引き続きバタバタです。
 できることをできるときにできるだけ。

 10月は、このブログのルーツの一つでもある「どんと」について、書いてきました。
 開設当初からいずれ書こう書こうと思いながら、果たせずにいたテーマだったので、ちょっとすっきりしました。
 あと一回、レビューを書きます。
 
【ロゴ画像変更】
 虹を見たかい?
posted by 九郎 at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2010年11月29日

どんとレビュー1

 ここまで、私がほんの一度だけすれ違い、その後多くの時間を楽しませてもらった稀有なミュージシャン・どんとについて、記憶のままに書き連ねてきた。
 記事を読んで、はじめてどんとのことを知ったという人もいることだろう。本来なら私の断片的な記事よりも、直接「音」に触れてもらうのが一番だと思うので、現在入手可能なCDを中心に紹介してみたい。


●「どんとスーパーベスト 一頭象」
 どんとについて予備知識のない状態から「最初に何を聴くか」を問われたら、やっぱりこれになるだろう。
 メジャーで活躍した二つのバンド、断続的に活動した「海の幸」、沖縄移住後のソロから、どんと自身の選曲で2枚組にまとめられている。
 どんとは二つのバンド、ローザ・ルクセンブルグとボ・ガンボスのボーカルとしての活動が最も知られおり、それぞれのファンも多い。そうした人たちにとっては、この2枚組の選曲は意外に感じるかもしれない。端的に言うと、二つのバンドの曲の割合がけっこう少ないのだ。
 ボーナス・トラック以外の全18曲中、ローザ3曲、ボ・ガンボス7曲(うち2曲は有名曲「花」「また逢う日まで」のカバー)、「海の幸」4曲、ソロ4曲という構成なので、メインの活動と目されがちなバンドの曲が半分以下になっている。
 そのかわり、華々しいバンド活動の影に隠れがちだった「海の幸」やソロの比重は相対的に高い。
 とくに、CDの入手しにくかった「海の幸」から4曲入っていることに、どんとのこだわりを感じる。
 どんと自身がこのベスト選曲を行ったのがいつのことなのか、はっきりしたことは不明なのだが、2000年にハワイで急死する直前であるかもしれないらしく、その経緯や全曲の解説は、パートナーの小嶋さちほさんによって、CDのブックレットにまとめられている。
 今となってみれば、この「一頭象」を聴くことで、どんとが志向していた表現がどのようなものだったのか、よくわかる。
 自身の楽曲を、より純度の高いものに読み替えつつ、民族音楽や大衆芸能とも自在に交流して独自の世界をつむぎだす感覚。
 それは生前最後のCDとなったライブ音源「サマーオブどんと実況録音盤」の世界とも、共通するのではないかと感じる。


●ごまの世界
 沖縄移住直後に制作されたソロ第一作。
 歌、楽器の全演奏と、録音・編集・制作の全てを自身で行った、純度100パーセントの一枚。
 弾き語りのようなスタイルの曲が多く、1995年発表当初はそれまでのバンド活動からガラッと芸風が変わった印象があっただろう。
 ただ、「運命の年」2000年を経過した今となってみれば、このタイミングでの方向転換は、どうしても必要だったのだなと理解することができる。
 どんとに残された地上の時間は、それほど長くは無かったのだ。
 歌詞の内容も物凄く繊細で、「彼岸」に足を踏み入れつつあるものが多く、CDを聴く一人一人に対して、さしで語って聞かせる雰囲気が漂っている。
 歌詞カードはCDのジャケットサイズではなくて、手書きのイラスト入り歌ノート(コードネーム入り)をそのままコピーし、ホッチキスでとめたような感じだ。
 中高生の頃、ギターを弾く友人の部屋に行って、自作曲を聴かせてもらった経験を持つ人は、その時の記憶がよみがえってくるかもしれない。
「子どもの頃の友だちが夢に出てきてなつかしい」
「忘れてしまったず〜っと前のことがなぜかこのごろ気にかかる」
 アルバム中の「心の中の友だち」という曲の歌詞の一部だ。
 この一枚が発表された時、どんとは三十才をいくらかこえていた。心と体の変化、自分を取り巻く状況の変化、色々あっただろうことが、私自身もある程度年をとって聴いてみるとよくわかる。 
 確かに音質の点ではメジャー作品に及ばないかもしれないが、そうしたマイナスをおぎなって余りあるものがこの一枚には詰まっている。
 折に触れ、何度も聴ける名盤。

●DEEP SOUTH
 97年発売。これがオリジナル・アルバムとしては最後の一枚になった。
 ジャケットには私が十数年前の満月の夜、海辺のライブで見たのとほぼ同じ服装「赤い服、黒い帽子」のどんとの姿がある。
 アーティスト名は「SPACY SONG STAR DONT」になっている。
 前作は物凄く繊細でプライベートな一枚だったのが、今度は一変してその名にふさわしく、全曲不思議な「宇宙サウンド」が駆け巡る。
 歌詞の世界も聴きこむほどに凄まじく、もう半ば「人」であることの価値観から浮遊して、インドの宇宙創造神が直接歌っているような言の葉が、例によって手描きのイラスト入り歌詞カードを舞い踊っている。
 どの曲も凄いのだが、とくに「どんとマンボ」「波」の世界は、ちょっと他のもので喩えるのが困難なくらい、独自の高みに登りつめている。
 もし、どんとの地上の生命にもう少しだけ続きがあって、2000年代の空気を体感し、すっかり一般化したDTMや音楽配信技術、そしてインターネットの技術を吸収していたとしたら、いったいどんな作品が生まれ、どんな活躍をしていたことだろう。
 どんとが90年代後半に、日本のDEEP SOUTHで試みた様々な事柄は、2010年の現時点の方がはるかにマッチしていたのではないだろうか。
 やはり「預言者」的な資質の強い人だったのだろうと、最近ますますそう思う。
 
●サマー・オブ・どんと実況録音盤 1998
 どんと沖縄三部作の最後の一枚なのだが、ソロのライブ盤というよりは、縁のある様々なアーティストとの共演記録といった雰囲気がある。
 自分の楽曲を自在に読み替え、沖縄民謡や共演者の持ち歌・演奏もまるごと飲み込んで、音の世界で遊び狂っているどんと。
 最後は一人「孤独な詩人」で星になった。
posted by 九郎 at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | どんと | 更新情報をチェックする