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2010年11月29日

どんとレビュー1

 ここまで、私がほんの一度だけすれ違い、その後多くの時間を楽しませてもらった稀有なミュージシャン・どんとについて、記憶のままに書き連ねてきた。
 記事を読んで、はじめてどんとのことを知ったという人もいることだろう。本来なら私の断片的な記事よりも、直接「音」に触れてもらうのが一番だと思うので、現在入手可能なCDを中心に紹介してみたい。


●「どんとスーパーベスト 一頭象」
 どんとについて予備知識のない状態から「最初に何を聴くか」を問われたら、やっぱりこれになるだろう。
 メジャーで活躍した二つのバンド、断続的に活動した「海の幸」、沖縄移住後のソロから、どんと自身の選曲で2枚組にまとめられている。
 どんとは二つのバンド、ローザ・ルクセンブルグとボ・ガンボスのボーカルとしての活動が最も知られおり、それぞれのファンも多い。そうした人たちにとっては、この2枚組の選曲は意外に感じるかもしれない。端的に言うと、二つのバンドの曲の割合がけっこう少ないのだ。
 ボーナス・トラック以外の全18曲中、ローザ3曲、ボ・ガンボス7曲(うち2曲は有名曲「花」「また逢う日まで」のカバー)、「海の幸」4曲、ソロ4曲という構成なので、メインの活動と目されがちなバンドの曲が半分以下になっている。
 そのかわり、華々しいバンド活動の影に隠れがちだった「海の幸」やソロの比重は相対的に高い。
 とくに、CDの入手しにくかった「海の幸」から4曲入っていることに、どんとのこだわりを感じる。
 どんと自身がこのベスト選曲を行ったのがいつのことなのか、はっきりしたことは不明なのだが、2000年にハワイで急死する直前であるかもしれないらしく、その経緯や全曲の解説は、パートナーの小嶋さちほさんによって、CDのブックレットにまとめられている。
 今となってみれば、この「一頭象」を聴くことで、どんとが志向していた表現がどのようなものだったのか、よくわかる。
 自身の楽曲を、より純度の高いものに読み替えつつ、民族音楽や大衆芸能とも自在に交流して独自の世界をつむぎだす感覚。
 それは生前最後のCDとなったライブ音源「サマーオブどんと実況録音盤」の世界とも、共通するのではないかと感じる。


●ごまの世界
 沖縄移住直後に制作されたソロ第一作。
 歌、楽器の全演奏と、録音・編集・制作の全てを自身で行った、純度100パーセントの一枚。
 弾き語りのようなスタイルの曲が多く、1995年発表当初はそれまでのバンド活動からガラッと芸風が変わった印象があっただろう。
 ただ、「運命の年」2000年を経過した今となってみれば、このタイミングでの方向転換は、どうしても必要だったのだなと理解することができる。
 どんとに残された地上の時間は、それほど長くは無かったのだ。
 歌詞の内容も物凄く繊細で、「彼岸」に足を踏み入れつつあるものが多く、CDを聴く一人一人に対して、さしで語って聞かせる雰囲気が漂っている。
 歌詞カードはCDのジャケットサイズではなくて、手書きのイラスト入り歌ノート(コードネーム入り)をそのままコピーし、ホッチキスでとめたような感じだ。
 中高生の頃、ギターを弾く友人の部屋に行って、自作曲を聴かせてもらった経験を持つ人は、その時の記憶がよみがえってくるかもしれない。
「子どもの頃の友だちが夢に出てきてなつかしい」
「忘れてしまったず〜っと前のことがなぜかこのごろ気にかかる」
 アルバム中の「心の中の友だち」という曲の歌詞の一部だ。
 この一枚が発表された時、どんとは三十才をいくらかこえていた。心と体の変化、自分を取り巻く状況の変化、色々あっただろうことが、私自身もある程度年をとって聴いてみるとよくわかる。 
 確かに音質の点ではメジャー作品に及ばないかもしれないが、そうしたマイナスをおぎなって余りあるものがこの一枚には詰まっている。
 折に触れ、何度も聴ける名盤。

●DEEP SOUTH
 97年発売。これがオリジナル・アルバムとしては最後の一枚になった。
 ジャケットには私が十数年前の満月の夜、海辺のライブで見たのとほぼ同じ服装「赤い服、黒い帽子」のどんとの姿がある。
 アーティスト名は「SPACY SONG STAR DONT」になっている。
 前作は物凄く繊細でプライベートな一枚だったのが、今度は一変してその名にふさわしく、全曲不思議な「宇宙サウンド」が駆け巡る。
 歌詞の世界も聴きこむほどに凄まじく、もう半ば「人」であることの価値観から浮遊して、インドの宇宙創造神が直接歌っているような言の葉が、例によって手描きのイラスト入り歌詞カードを舞い踊っている。
 どの曲も凄いのだが、とくに「どんとマンボ」「波」の世界は、ちょっと他のもので喩えるのが困難なくらい、独自の高みに登りつめている。
 もし、どんとの地上の生命にもう少しだけ続きがあって、2000年代の空気を体感し、すっかり一般化したDTMや音楽配信技術、そしてインターネットの技術を吸収していたとしたら、いったいどんな作品が生まれ、どんな活躍をしていたことだろう。
 どんとが90年代後半に、日本のDEEP SOUTHで試みた様々な事柄は、2010年の現時点の方がはるかにマッチしていたのではないだろうか。
 やはり「預言者」的な資質の強い人だったのだろうと、最近ますますそう思う。
 
●サマー・オブ・どんと実況録音盤 1998
 どんと沖縄三部作の最後の一枚なのだが、ソロのライブ盤というよりは、縁のある様々なアーティストとの共演記録といった雰囲気がある。
 自分の楽曲を自在に読み替え、沖縄民謡や共演者の持ち歌・演奏もまるごと飲み込んで、音の世界で遊び狂っているどんと。
 最後は一人「孤独な詩人」で星になった。
posted by 九郎 at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | どんと | 更新情報をチェックする