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2010年12月02日

どんとレビュー2

 沖縄移住後のどんとが自身で世に送り出したアルバムは、結局、前回記事で紹介した「沖縄三部作」のみになった。
 どんとの死後、廃盤になっていたバンド時代のCDが再発されたり、新たな音源が何枚か発表された。
 表現者の死後発表される作品については「但し書き」をつけて考えるべきだと思うのだが、ベスト盤「一頭象」のように、既に公開済みの作品の中から自分で選曲したものは「どんとの作品」と呼んでほぼ差し支えないだろう。
 また、生前その表現者が明確に公開の意志を持っていたものについては、一応「完成作品」として扱えるはずだ。以下に紹介する一枚は、どんとが二十歳代のころに作成したデモ音源ではあるけれども、生前のどんとが「沖縄三部作」につづいて「公開したい」という意志を表明していたとされる作品だ。


●「原色音楽 DONT SPACY SONGS 1985~1986 DEMO」
 どんとが23〜24歳の頃、一人で歌、演奏、録音を行ったデモテープを、死後CD化したもの。
 雑多な楽曲が詰め込まれたデモテープをそのままCD化したものだが、後のバンド活動で発表された曲も多く、個々の曲の完成度が物凄く高いので、普通にアルバムとして聴ける。
 たった一人で宅録したという点では、沖縄移住後のソロアルバムの雰囲気と共通したものを感じる。極私的な空間で制作されたこの音源を起爆剤に、その後のどんとは、文字通り広く日本〜世界を回遊し、大きく成長して、最後に行き着いた沖縄の地で、原点のアプローチに立ち返ったように見える。
 POPSとして十分に完成された「魚ごっこ」「眠る君の足もとで」「さわるだけのおっぱい」などとともに、どんと特有の、無意識の領域からこぼれて来たような、怪しく「変」な音も存分に収録されている。
 怖い童謡のような味わいの「おさにさん」や、じっと一人で聴こえない何かに耳を傾けているような「荒くれ男の一人言」といった曲は、まさにどんとならではの楽曲だと思う。
 
 生前最後の公開作品となったライブ盤「サマー・オブ・どんと実況録音盤 1998」に、沖縄民謡「道三世相(みちさんじんぞう)の唄」をどんとが歌ったものが収録されている。
 沖縄民謡と言えば一般には「安里屋ユンタ」「てぃんさぐぬ花」のような曲がイメージされることと思うが、色々聴いてみるとかなり怪しげな雰囲気の曲もけっこうある。
 この「道三世相の唄」などはその最たるもので、どんとのカバーはたぶん神谷順公の歌ったものをほぼそのまま踏襲していると思うのだが、元歌の持つ怪しさと、どんとの怪しい物好きな持ち味が見事にマッチしている。
 「道三世相」というのは、大和言葉に無理矢理翻訳すれば、「辻占い師」とか「山伏」とか「民間陰陽師」「拝み屋さん」などの概念に相当するだろう。私は沖縄言葉の歌詞を正確に理解することはできないけれども、大意で言うと、そうした民間宗教者が手を変え品を変えて客をひっかける様子をネタにしている歌ではないかと思う。
 太鼓のリズムが普通の沖縄民謡ともまた違った無国籍な感じで、物凄く怪しげだ。
 私は当ブログ「縁日草子」をつらつら綴ってくる過程で、民間宗教者と芸能民の根深い関係について徐々に理解しつつあるのだが、どんとのようなミュージシャンがその遍歴の果てに、こうした土俗的なモチーフを扱った民謡にたどりついていることは、非常に興味深い。
 そうした傾向の萌芽は二十歳代の頃のデモテープの、たとえば「おさにさん」などにも見て取れるので、もし2000年以降にもどんとの地上の生命に続きがあったとしたら、こうした「土俗」に入りこんだ楽曲ももっと聴けたかもしれないと思う。


 どんとは「音」以外にも「絵」という表現手段を持っていた。
 歌詞カード等の添付イラストにその片鱗は見られるが、自伝的なマンガ作品も残している。
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●「どんとマンガ」
 どんとは二十歳代の頃、バンドのメンバーの部屋にずらっと並んでいた「ガロ」を読み耽っていた時期があったそうで、その影響はこの自伝的マンガ作品にはっきりと見て取れる。
 技術的に「上手な」絵ではないけれども、少ない描線でちゃんと何を描いているかが伝わる「マンガの絵」になっている。私も絵描きのハシクレなのでよくわかるのだが、この「少ない線で意を伝える」というのが中々の曲者で、それができるのは生来の絵心のある人だけだと思う。
 内容は一応、自伝的な体裁をとっているけれども、事実ともフィクションともつかない不思議な世界だ。おそらく「どんと」というキャラクターにとっての「まこと」であるのだろう。
 絵の端々にちらちらと奇怪なイメージが出現しているのだが、上掲「原色音楽」を聴きこむと、いくつか「ああ、このことだったのか」と気付くものもある。
 この本は同人誌のような作りで一般書店での入手は不可能だと思うが、公式HP内のゴマショップで、今でも購入可能のようだ。

 どんとの死後、いくつかの書籍で「至近距離から見たどんと」が回想された。



●「クイック・ジャパン (Vol.30)」
 どんと追悼特集。
 近しい関係者の証言から構成された記事自体も読みごたえのあるものなのだが、何よりも表紙に使用されたどんとの「晩年」の写真が良い。これ一枚で、どんとが最後にはどのような境地に達していたのか感覚的にわかる気がする。
 ベスト盤「一頭象」のジャケットにも同じ写真が使用されているが、どんとの背後の、おそらくガジュマルであろう樹が切れている。
 背後の樹は、画面内にどうしても必要だと思うので、ファンはこの写真一枚だけでも「買い」ではないだろうか。

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 どんとの、最も至近距離にいたパートナーである小嶋さちほさんの著作は、どんとの「音」を聴いて、その体験を深める時、やはり大切なものだと思う。


●「竜宮歳事記 どんとの愛した沖縄」小嶋さちほ (角川文庫)
 以前、カテゴリ沖縄参考図書として紹介。
●「虹を見たかい? 突然、愛する人を亡くしたときに」小嶋さちほ(角川書店)

(どんとレビュー 終)




 以上で、ささやかながら綴ってきた「わたしの垣間見たどんと」についての筆を置くことにする。
 どんとの個々の楽曲、作品については、おいおい記事にしていくこともあると思う。
posted by 九郎 at 01:16| Comment(0) | TrackBack(0) | どんと | 更新情報をチェックする

2010年12月04日

音遊び「とおりゃんせ」2010

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 さる天神社の背後の森
 暗い石段つづく山道
 古びた祠に秘められし
 文書に記しおかれるは
 童歌なる とおりゃんせ
 夢かうつつか まことか嘘か
 行きはよいよい 帰りは恐い
 怖いながらも
 聴かしゃんせ


posted by 九郎 at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 音遊び | 更新情報をチェックする

2010年12月06日

続きが読みたい!

 当ブログでは戦国時代に特異な存在感を示した「雑賀衆」と、その主戦場であった「石山合戦」についてぼちぼち記事をあげている。
 その中で雑賀衆の活躍するマンガについてもカテゴリ和歌浦等で紹介してきた。
 そして、雑賀衆の鉄砲戦術が極めてリアルに描かれた、マンガ「雑賀六字の城」を、現在連載中の一押し作品として度々取り上げてきた。
 津本陽「雑賀六字の城」
さいが」か「さいか」か
鉄砲戦術を絵にするということ

 毎月月末に掲載誌の「コミック大河」が発売されるのを心待ちにしていたのだが、悲しいことにこの雑誌、十月末発行の第十号で休刊(という名の廃刊)してしまった。
 ここ1〜2年の戦国ブームにも、そろそろ秋風が吹き始めたか……
 私の愛したマンガ版「雑賀六字の城」は、主人公が信長を今まさに遠距離狙撃する!!!!というシーンで中断。
 それはないっすよ(涙)
 あまりにもったいない。
 どこか引き受ける雑誌は無いのかな?

 というわけで、私は関係者でも何でもないのだが、一ファンとして、単行本の第一巻の宣伝に協力したい。

●「雑賀六字の城 壱」原作;津本陽 マンガ;おおのじゅんじ(PHP研究所)

 雑誌掲載分は、単行本の第一巻よりいくらか進行している。
 この第一巻の売り上げが伸びれば、次の展開も見えるのだろうから、雑賀衆や戦国時代、織田信長に関心のある人は、ぜひ一度、手に取ってみてください。
 完結すれば、「石山合戦」を描いたマンガの中で、現時点の決定版と言えるものになるかもしれないと思っています。
 一つ、夜露死苦!
posted by 九郎 at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 石山合戦 | 更新情報をチェックする

2010年12月08日

甘美な誘い

 本日、12月8日は釈尊成道会(しゃくそんじょうどうえ)。
 約二千五百年前、お釈迦様がインド、ブッダガヤーの菩提樹の下で、悟りを開いたと伝えられる日。

 魔王の誘惑や猛攻を退け、降魔成道を果たしたお釈迦様は、そのまましばらく悟りの境地を楽しんでいたという。
 ただ一人、境地を楽しむばかりのお釈迦様の元に、最高神の一人である梵天が訪れて、衆生にその悟りを説法してほしいと願った。
 しかしお釈迦様は、自分の悟りが容易に衆生に伝わるものではないと知っていたので、なかなか願いを聞こうとしてくれない。
 梵天の懇願を三度受けて、ようやくお釈迦様は金剛宝座を立ったという。

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 別の伝承では、成道の直後、魔がお釈迦さまに囁きかけたことになっている。
 見事、修行を完成したからには、一刻も早く入滅してはどうか、と。

 おそらく、お釈迦様ご自身の心の中にも、修行完成後はすぐにでも入滅してしまうのも本望であるという思いは、あったのではないか。
 成道前であれば、悟りを求める心はダイヤモンドの如く堅固で、魔王軍のいかなる誘惑、攻撃にも打ち勝ってしまったお釈迦様だが、その悟りを完成してしまった時点でのこの囁きには、かなり心が動いたのではないかという気がする。
 同時に、その甘い囁きが魔から発せられたものであることが、逆に本来あまり乗り気でなかった「伝道」への後押しになったのではないか?
 そんな気もする。

【関連投稿】
成道会
降魔成道
色究竟天
金剛宝座
posted by 九郎 at 01:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 季節の便り | 更新情報をチェックする

2010年12月09日

落ち葉拾い1

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 紅葉の季節も過ぎようとしている。
 名所巡りをする余裕はとてもなかったが、街を歩いていれば様々な樹の葉を眺められる。

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 視界いっぱいの彩りは、名所にでも行かなければ中々巡り合えないが、樹一本、枝一本、壁一面など、ピンポイントに注目すれば、どこでも紅葉は美しい。

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 その気になれば、葉の一枚一枚でも十分楽しめる。

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 足もとの落ち葉がものすごく綺麗に見えて、ふと拾ってみたくなる。

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 子どもの頃、落ち葉拾いは理屈抜きで楽しかった。
 少し成長すると、リアリズムがわかってきて「葉っぱ拾っても意味ない」と分かってくる。
 屋外であんなに輝いて見えた落ち葉も、もちかえってみれば意外とくすんで見えたりするし、どうせ捨てなければならないし。
 それでもやっぱり落ち葉拾いは楽しい。
 綺麗なものを一心に探して、拾い集めるという時点で、もう完結している。
 拾った後、どういう意味も無いとわかっていても、それはまた別問題だ。

 遅ればせながら最近やっと、大人の落ち葉拾いに辿りついた。
posted by 九郎 at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 季節の便り | 更新情報をチェックする

2010年12月10日

落ち葉拾い2

 モミジやイチョウ、カエデでなくても、紅葉の時期にきれいな色どりの葉はけっこうある。
 私が毎年楽しみにしているのが、サクラ。
 春に花見をしたサクラ並木に行ってみれば、緑から黄色、赤までの、様々な色合いが楽しめる。

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 落ち葉は、実は「生もの」だ。
 落葉の絨毯の中で目を引くのは、まだ落ちたばかりの葉。

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 みずみずしく鮮やかな色合いは、数時間しか持たない。
 写真を撮るなら持ち帰ってすぐにしないと、みるみる葉っぱはくすんでいってしまう。

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 今はもう、すっかりサクラの葉も散ってしまったが、そのかわり、すでにつぼみは用意されている。

 今年はあたらしくハマった葉っぱがある。
 通りかかった公園で、ふと見上げると、その樹はあった。

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 幅広なウチワのような葉っぱ。
 深紅のものもあれば、黄色いのもある。
 緑に血管の浮き出たようなのもある。
 同じ木の葉に踊る、無数の色と模様。

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 調べてみると、ナンキンハゼという樹種らしい。
 野暮な人間なので、この年までこんなきれいな葉っぱに気づかなかった(笑)
 まだまだ知らない植物がいっぱいあるのだろうな。

 掃き集められた落ち葉の山までが、ものすごく美しい。

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 落ち葉拾いは、それだけで楽しく完結しているのだけれど、もう一歩進めれば「拾った葉っぱを描く」という楽しみもある。
 私は今、バタバタしていて、描いてみる時間が取れなかった。
 来年こそは。


 最後に、今年見つけた「落ち葉の達人」の絵本をご紹介。


●「落ち葉」平山和子 平山英三(福音館書店)
 全編、葉っぱ尽くし。
 拾う、観察する、描く、撮る。
 目で味わう葉っぱワールド。

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2010年12月11日

カテゴリ整理

 いくつかカテゴリを新設。

 カテゴリカミノオトズレから、音遊びと、どんと関連の記事を独立カテゴリに。
 岡本太郎の記事も一まとめにするために独立。
posted by 九郎 at 17:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2010年12月12日

沖縄手帳

 そろそろ今年も終盤。
 皆さん、手帳はもう用意しただろうか?
 
 今回紹介するのは「沖縄手帳」といって、普通は沖縄でしか入手できないもの。
 私は近場の沖縄ショップで見つけた。

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 サイズはA5版とポケット版で、見開きに一週間の予定が組めるタイプ。
 私が例年使っているのもこのタイプで、普通に手帳として使いやすいのだが、なんといってもこの「沖縄手帳」の特色は、沖縄生活の利便性に特化した各種情報が、細かに記載されていることだ。
 通常の手帳でも「大安、仏滅」などの日柄は記載されているものが多いが、この「沖縄手帳」、そうした日柄以外にも、毎日の月齢や潮の干満時刻、旧暦の日付や、過去の天気確率が、一日一日全てに記載されており、さらに加えてその日あった沖縄関連の出来事が豆知識として添えられているのだ。
 沖縄は伝統的に、冠婚葬祭の行事に参加する機会が非常に多い土地柄で、海に関係する仕事を持つ人も多いことから、自然にこのような作りになるのだろう。
 そして巻末には特別史料として「米軍基地と沖縄」、各種交通機関の時刻・料金表、沖縄周辺地図なども完備されている。
 まあ、あくまで「沖縄生活」に特化した手帳なので、ヤマトの人間が、ヤマトでの生活に使う際の実用性はそれほど高くないかもしれない。旧暦、月齢はともかく、潮の干満時刻などは、そのまま使うことはできないだろう。
 それでも、この手帳は「読み物」として十分に面白いし、私のように「神仏与太話ブログ」などというものを続けている特殊な人間にとっては、けっこう参考になる資料だ。

 公式HPもあるようなので、興味のある人は検索してみてください。

 ヤマトでも、各地方にあわせたこういう手帳を発行してくれないかなあ……
posted by 九郎 at 22:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 沖縄 | 更新情報をチェックする

2010年12月13日

常在遍路

 常在戦場という言葉がある。
 昔の武士の心得で、常に戦場に在るつもりで日々生活せよというほどの意味になると思う。
 私の場合は「常在遍路」だ。
 普段歩いている時、なるべく歩き方に注意をむけ、色々試している。
 絵を描いたりものを作ったりする機会が多いので、週一回以上の頻度でホームセンターに行くのだが、その時ついでに各種アウトドア用品や作業着の物色も欠かさない。
 そろそろ冬本番で、作業場もかなり冷えてきたのだが、最近の作業着は「暖かい、薄く軽い、安い」の三拍子揃っていて非常に助かる。
 1500円ぐらいの作業用ジャンバーの、なんと使い勝手の良いことか。
 昨今のホームセンターは確実に進化しております!
 私が作業着に求める要素と、熊野等の山へ行く時の装備に求める要素はかなり重なっているので、良いものを見つけると反射的に「これ、山でも使えるな」などと考えてしまう。
 今は行けないけれども、心は「常在遍路」だ。

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posted by 九郎 at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 熊野 | 更新情報をチェックする

2010年12月21日

蝕3

 今日は本来なら夕方に皆既月蝕が見られたはずなのだが、あいにくの雨模様。
 こんな風に「あったはずの月蝕」を残念に思うことができるのは、現代の感覚。
 昔の感覚なら、「見えなかった月蝕」などと言う表現がありえないだろう。
 月の欠ける過程が見えることが月蝕なのだから、雨雲の上で人知れず起こっている事象は、存在しないに等しかったのではないか。
 天体の運行に常に関心を払う呪師ならば、あるいは何事かを感知出来ていたかもしれないが。

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蝕2
太陽と月を喰う悪魔
天の乗物 太陽と月
posted by 九郎 at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 季節の便り | 更新情報をチェックする