もうずっと観ていなかったのだが、久々に。
素材である「平清盛」とその時代背景が、NHK大河ドラマの予算を使ってどのように再現されるのか確かめたかった。
平家の時代であれば当然ながら海上交易や海戦、とくに瀬戸内海を舞台にしたあれこれが描かれるはずで、カテゴリ海や石山合戦において、時代は違えど「海」に注目している私としては、チェックしておきたいドラマだ。
また、「白拍子」や「今様」がどのように扱われるかも楽しみだった。
初回を見たかぎりでは、「さほど史実にこだわった作品では無さそうだ」と思った。
NHK大河はあくまでエンターテインメントなので、史実と違うからと言ってどうこう言う筋合いではないが、私のように「何かの参考にしよう」と思って観ている者としては、どういう方向性の作品なのか一応判断しておかなければならない。
最近よくある「歴史モノの体裁を借りたホームドラマ」というタイプではなさそうなので、引き続き観ていくことにする。
海上シーンに出てくる平安時代の和船には、それなりに予算が割かれているようで、大型船はなかなかカッコ良かったが、小型舟はちょっと現代のボートっぽすぎる気もした。
船体下部に木材の継ぎ目が見えなかったので「刳船(くりぶね)」(いわゆる丸木舟)という設定なのかもしれない。丸木舟は単純ながら極めて堅牢な構造なので、古代から近現代まで小型舟には長く使われ続けてきた。
まあ、今回のドラマの場合は単に「ボートをそれっぽく塗った」というだけのことかもしれない。
平忠盛(中井貴一)が狩衣のまま海に飛び込み、単身海賊船に乗り込んだのは「?」が浮かんだ。どんだけ泳ぎが上手いのだろうか。。。
そもそも、これはどこの海なのだろうか?
初回だけではこれから登場するであろう「源平海戦」の再現度を予想するのは難しそうなので、今後に注目。
清盛の時代の文化でけっこう重要だったと思われる「白拍子」や「今様」については、作中でもかなり頻繁に扱われていくようだ。
私の大好きな一節も、初回作中で繰り返し詠まれていた。
遊びをせんとや生れけむ
戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば
我が身さえこそ動がるれ
(梁塵秘抄より)
この頃の今様は「梁塵秘抄」に歌詞が一部残っている程度で、当時のメロディはもちろん不明。
民間の流行り歌なので、それほど固定されたメロディがあったわけでもなく、歌い手によって様々だったらしい。
もしリアルに再現するとしても邦楽の音階や、民間に伝わった和讃の類から類推するしかないだろうし、仮に再現できたところでそのメロディを当時の人が受け止めた時の感動までは分かるはずもない。
今回のドラマではメロディがかなり現代風になっていた。
個人的には「残念」という感想を持ってしまったが、今様は当時のPOPSなので、現代に制作されるドラマの中で、現代の視聴者の耳に入り易くする手法としては、これも有りなのだろうとは思う。
松田聖子演じる祇園女御は、ドラマ終盤では「乙前」になるそうだ。
乙前と言えば「梁塵秘抄」の編者である後白河院の師匠なので、これからの展開の中でも今様は使われていくことになるのだろう。
私は純粋にドラマを楽しむというよりは、色々な素材がどう扱われているかに興味があるだけなので、ある意味「不純」な観方をしている。
そういう前提で初回の感想をまとめると、「今後に期待」というところだろうか。
冒頭に出てきた北条政子の衣装やメイクがすごく気になったが(笑)、白河院はバラエティの伊東四朗とはちゃんと別人に見えたし、松田聖子も思ったより画面から浮き上がって見えなかった。
少なくとも「初回だけでお手上げ」ということは無かったと思う。
今様や白拍子についてかなりページが割かれ、興味深い本は以下の一冊。
●「「悪所」の民俗誌―色町・芝居町のトポロジー」沖浦和光(文春新書)