ホットサンドが好きだ。
サンドイッチのパンの部分を焼いて、少し焦げ目をつけた、あれ。
たまに無性に食べたくなる。
普通のサンドイッチを買ってきて、トースターで温めてもけっこう良いのだが、たまに喫茶店でも美味いのを出してくれる店がある。
ただ、「ホットサンドがおいしい店」という条件限定だと、かなりお店は限られる。
ホットサンド自体出していない店が多いし、たまにメニューにあっても、薄っぺらなハムとチーズ、あとはレタスの切れ端みたいなのがはさんであるだけで、がっかりしたりする。
ホットサンドとかオムライスとか、頻繁ではないけれども、たまに無性に食べたくなるメニューがある。そういうのが美味しいお店は、行動範囲の中にせいぜい一軒あればラッキーな方だ。
幸い、ホットサンド用のお店は一軒見つけてある。
そこのサンドは、焼いた山食にハムやトマト、ポテトサラダがあふれるぐらいはさんであって、かなり満足できる。
昼飯時にたまに足を運んで、充実したホットサンド時間を過ごせる良い喫茶店なのだが、一つだけ困ったことがある。
たまにしかいかないのに、かなりの確率で、マルチ商法の勧誘をやっている場面に出くわしてしまうのだ。
どうやらマルチ業者のアホどもが常連になってしまっているようなのだ。
そのような場面に出くわしたからと言って、別に私に直接被害が及ぶわけではないのだが、「獲物」を勢いで煙に巻こうとしている業者どものバカでかい声は、いやでも耳に入ってくる。
せっかく美味いホットサンドにありついているのに、胡散臭い内容をいかにも騙されやすそうな「獲物」相手に自信満々でしゃべり続けている様子は、不愉快極まりない。
そういう目に合わないように、その店に入るときは外から客席を確認するのだが、注文したあとからマルチ組に乱入されるとどうしようもない。
マルチ商法の勧誘は、自分から「マルチです」とは当然ながら言わない。
私がむりやり聞かされた範囲では、浄水器などの健康関連商品や、最近なら「スピリチュアル」とか「ヒーリング」をネタにしたもの、中には「放射能除去」をうたった商品をネタにしたものもあるようだ。
こう言ったネタを、ほとんど連絡のなかった親戚や、中高生のころの友人、先輩後輩などからいきなり持ち込まれた経験は、誰しもあるだろう。
多少なりとも世間を知っていればこんなものには引っかからないだろうが、わずかにでも縁のある人から話を持ち込まれれば、情にからめられて商品の一つぐらいは買ってしまう人もいるかもしれない。
私の場合は、心を鬼にも悪魔にもして一切断り、当人には一刻も早くそのような詐欺からは脱出するよう忠告する。
多くの場合、そんな忠告は聞き入れてもらえず、逆にこちらがバカ扱いされてしまったりするのだが、言うべきことは言わなければならない。
マルチ商法については、「ナニワ金融道」の、文庫版第八巻に詳しい。
●「ナニワ金融道8」青木雄二(講談社漫画文庫)
作中で展開されるマルチについての分析は、極めて秀逸だ。
どんな貧乏人にも、たった一つだけ「人間関係」という財産があり、マルチはそれを換金することで成立すると解説されている。
営業能力を持つ一部の例外を除いて、大量の商品を抱え込んでしまったマルチ被害者は、それを「身内」に押し付けるしか道はない。
近親者も一回ぐらいは仕方なく商品を購入するだろうが、それが原因で縁は切れてしまう。
そのうちマルチ被害者は、遠い親戚であろうと、遠い昔の同級生であろうと、手当たり次第に接触を図ることになる。
こうなるともう、被害者の頭の中では、自分の友人知己をゼニで換算する回路が出来上がってしまい、まっとうな感覚は破壊される。
人間関係は一回限りで消費され、二度と元へは戻らない。
被害者の話を聞いてくれるのはマルチの人脈だけになり、ますます頭は破壊されてしまう。
そろそろ美味いホットサンドが食べたくなってきたのだが、今度行くときは「あいつら」と同じ時間帯になりませんように……
たのむでほんま。