前にいましろたかしの作品を読んだのはいつだっただろうか?
もしかしたら十年以上経っているかもしれない。
二十歳前後の頃、デビュー作(?)の『ハーツ&マインズ』はよく読んでいた。
作中のどうしようもない若者たちと、ほぼ等身大の感覚で、喫茶店で友達の噂話を聞くような気分で読み耽っていた。
ふと立ち寄った本屋の原発関連本のコーナーで、思いがけず、いましろたかしの名前を見かけてしまった。
●「原発幻魔大戦」いましろたかし(ビームコミックス)
まず、「原発幻魔大戦」というタイトルに目を引かれた。
あとがきによると、やはりこのタイトルは平井和正「幻魔大戦」から借用したもののようだ。
いましろたかしが平井作品を読んでいたとは思わなかったが、平井読者であればこのタイトルを使うことの「重さ」というものは十分承知の上なのだろう。
久々に読んだいましろ作品。
絵はかなりシンプルに枯れており、私の知る初期作の粗いタッチは無い。
しかし登場人物達の、表現が難しいのだが「どこか醒めた閉塞感」みたいなものは、まったく変わらず描かれているように見えた。
かつての『ハーツ&マインズ』ファンは、一度手に取っておいて良い作品だと思う。
いかにもいましろ作品らしい、思い込みは強く、問題意識はあるのだけれども、何もできない無力さをかかえた登場人物が、3.11以降の世界に生きる様子が見られる。
初期作が描かれた1990年前後であれば、こうしたキャラたちは、そして私自身は、それぞれに苦しみもだえながらも、どこか楽天的に日常をおくることができた。
しかし2011年3月11日以後、その前提ははっきり崩れてしまった。
この日本で本当に「幻魔大戦」が始まってしまっても、あいかわらず何もできず、ケータイやネットに貼りつきながら、情報を詰め込むだけの自分がいる。
突き詰めて考えれば悲惨な事態は、表面上はごく平穏に進行していく。
そのもどかしさの、極めて淡々としたリアルな表現がここにある。
3.11で直接被害を受けた皆さんにとっては、もしかしたら気楽で無責任で薄っぺらな内容に見えるかもしれない。
しかし、直接の被災者でない者にとっては、何か一歩踏み出すにしても、何もできないにしても、こうした視点から始めるほか無いのだ。
