原発関連では腹の立つニュースが多すぎて、本当なら一つ一つがもっと大きく取り上げられなければならないはずの記事が、日々流れ去ってしまっているという歯がゆさがある。
少し前、こんな報道があった。
【電気料金「安過ぎた」=原発ゼロで上昇へ―枝野経産相】
(時事通信 11月30日(金)12時17分配信)
枝野幸男経済産業相は30日、閣議後の記者会見で、従来の電気料金には原発事故のコストなどが含まれていないことから「今までが安過ぎた。間違った料金を取っていた」との認識を示した。
2030年代の原発ゼロを進める中で、電気料金は今後上昇するとの見方を示した。
様々なレベルで、奇妙なニュースである。
まず、普通の国語力を持っていれば、見出しと内容が食い違っていることにすぐ気付くことだろう。
見出しだけ読めば、あたかも原発ゼロになることが原因で電気料金が上昇するかのような印象を与えている。
しかし記事内容は全く違う。
枝野経産相の発言が記事通りだとすれば、あくまで「従来の電気料金には原発事故のコストなどが含まれていない」ので「今までが安過ぎた。間違った料金を取っていた」と言っているのである。
論理的に考えれば、これまでの原発コストの算定・料金設定が間違っていたということなので、今後仮に原発を再稼働するとしても料金は上がるという意味にしかなりようがない。
もう一歩踏み込めば、原発を即時停止して放射能汚染を引き起こす可能性が低減されれば、それだけ電気料金の上昇幅を抑えられるという解釈もし得る。
末尾の「2030年代の原発ゼロを進める中で、電気料金は今後上昇する」という個所には、枝野経産相の発言そのものを示すカギカッコが付いていないので、常識的には記事を書いた人間による付加だろう。
見出し及び末尾の一行を加えることで、枝野経産相の発言趣旨は全く違った印象を与えられている。
枝野経産相の発言趣旨では、あくまで料金上昇の原因は原発にあるにも関わらず、記事全体としては原発をゼロにすることが料金上昇の原因であるかのような印象になっている。
世界的にも高いと言われて久しい日本の電気料金を「今までが安過ぎた」などと安易に口走ってしまう枝野経産相の言葉の薄っぺらさも問題ではある。
3.11後に連発して批判を浴びた「直ちに影響はない」以来、相変わらず反省の色が見られないが、これだけ趣旨を捻じ曲げた記事を書かれたら抗議して良いレベルではないだろうか。
この奇怪な記事構成が端的に示しているが、昨今の報道における「脱原発=電気料金の上昇」という短絡的なまとめ方には、何か意図的なものを感じざるを得ない。
報道全般に「脱原発は料金が上がる」という印象操作で一致していることが、目前に迫った衆院選で脱原発の民意が投票行動に直接結びつかない傾向を補強しているように感じられる。
関西電力をはじめとする電力各社は、原発停止による火力の燃料費上昇を理由に、電気料金を上げようと画策している。
とくに関西電力は福井県という日本最大の原発銀座を抱え、原発依存度が突出して高かったせいで、火力燃料費の件を強調して理解を求める作戦であるようだ。
しかし、それならば「安い原発」の依存度が突出して高かった関電の電気料金は、他の各社に比べてこれまで突出して安かったのであろうか?
残念ながらそんなことは全くない。
関電が電気料金を上げる必要があるのは、今後稼働できるかどうか不透明な原発をそのまま抱え続けながら、同時に火力の稼働を増やしているせいではないか。「火力の燃料費の上昇」はその部分だけ切り取れば嘘ではないだろうが、他にどうしても捨てることのできない重荷を背負っていることこそが料金値上げの本当の原因ではないのか。
個人的には、関電の経営は、もう「詰み」になりかかっているのではないかという印象を持つ。
抱え込んだ多数の原発が、収益を上げられず、コストだけは膨大にかかる不良資産の山と化すことを恐れて、あらゆる手段を使った再稼働の理屈付けが行われている。
しかし、行き着く先はどのみち、顧客に過重な負担を強いる方向しかない。
火力に切り替えれば燃料費が必要になる。
既存の原発を稼働させるにも、新たな耐震・対津波、事故対策に巨額の費用がかかる。
大飯のように、直下に活断層の存在が疑われる危険極まりない原発を無理やり再稼働すれば、厳しい批判がいつまでも続く。
老朽原発を廃炉工程に乗せなければならない時期は目前に迫っている。
枝野経産相の発言によれば、原発を稼働させようとさせまいと、電気料金は上げざるを得ない。
原発事故対策の費用は、料金に上乗せされない場合は結局、国、つまり税金から支払われ、国民負担になる。
行くも地獄、帰るも地獄。
このまま電気料金の高騰が続くならば、産業界の体力のある大企業から順に、コストの安い自家発電への切り替えが進んでいくだろう。原発停止を理由にした、私に言わせれば「虚偽に満ちた」夏季の節電要請を経て、その流れは既に始まっている。
主要電力会社の火力発電が料金値上げのきっかけになるのは、動かせない原発を抱えたまま火力の稼働を増やすことが原因であって、それは電力会社の経営問題に過ぎない。
電力会社を経由しない、企業の自家発電による火力は、今後コスト的に割安になっていくことだろう。
八百長抜きでコストを比較すれば火力の方が安くなるのは、ずっと昔から指摘され続けてきたことだ。
大口需要先から順に、泥船から脱出を図るながれは止まらなくなるのではないだろうか。
加えて、電力消費量の少ない小口の需要に対しても、すでにコスト的に見合うだけの自家発電技術は実用化されつつある。
電力会社の理不尽な料金値上げは、こうした自家発電の流れに対して強力な追い風になりえる。
何しろ競争相手が勝手に値上げしてくれるのだから、自家発電側にとってこんなに楽な試合はないだろう。