小人数とは言え脱原発の一つのブロックではあった未来の党が、分裂した。
何のための分裂なのか全く不透明で、むなしい限りである。
小沢グループ、亀井静香、嘉田知事ともに、今後もまさか脱原発の旗を降ろすことはないだろうが、結局この人たちの中での原発政策は、優先順位の低いものだったのだろうと判断せざるを得ない。
それはどう考えても戦術としてマズいとしか思えないのだが、政治家の考えることは理解不能である。
私にはとうてい理解できない何事か最優先事項に従って行動しているのだろうが、これでもう今後、未来の党の一派が脱原発を望む有権者の広範な支持を集めることは無いだろう。
私は今すぐ放射能対策で有効な手を打たなければ国民の健康に重大な影響が出、国内全原発の即時廃炉を進めなければ次なるフクシマが起こってしまうのは時間の問題だと考えているので、こうした危機感の薄い悠長な政治家たちの言動に一喜一憂している余裕はない。
現在の国会議員の中には、自民党の中にすらある程度の人数の脱原発派が存在することはわかっているものの、原発政策に対する認識の甘さ、優先順位の低さはいかんともしがたい。
そもそも「議員に託して何かしてもらう」ことを期待する方が間違っているのかもしれない。
有権者側で原発の危険性、非経済性に対する認識を深め、「議員の尻を叩く」くらいでなければならないのだろう。
私は私個人にできることを、ただ淡々と続けるのみである。
大切な「事実」は以下のようにまとめられる。
・今すぐ国内全原発の廃炉を決定しても、電力不足は絶対に起こらず、無理な節電も全く必要ない。
・代替エネルギーは、まずは最新の火力(現行の電力会社も使用しているガスコンバインドサイクル)で十分である。
・中長期的には燃料電池やコージェネレーションの普及でエネルギー効率を上げれば、同量のエネルギーを得るために費やされる資源や排出ガスを、劇的に減らすことができる。
・コスト的には原発ほど高くつく発電方法は他にない。
以上のような「事実」は、検証困難な特殊情報でもなんでもなく、関心を持って調べていけば誰にでもたどり着くことができる。
無理なく理論武装できる参考図書をまとめて紹介しておきたい。
●「城南信用金庫の「脱原発」宣言」吉原毅(わが子からはじまるクレヨンハウス・ブックレット)
前回記事で紹介した異色の金融機関、城南信用金庫の吉原毅理事長が、会社ぐるみで脱原発宣言をするにいたった経緯をつづったブックレットである。
金融機関のリーダーとして、採算の取れる形での節電や自家発電、既存の電力会社を使用しないことによるコストダウン、今すぐにも脱原発が可能である事実を、がっちりした数字を示しながら「実証」し尽くしている。
ブックレットなので小一時間もあれば通読でき、上質な講義を一コマ受講したような充実した読後感を得ることができる。
語り口はあくまでソフトで平易であるけれども、行間に著者の生来の気の強さと反骨精神がにじんでいるように感じるのは気のせいだろうか(笑)
●「信用金庫の力――人をつなぐ、地域を守る」吉原毅(岩波ブックレット)
今回、吉原毅という異色の信金経営者のことを知り、はじめて「信用金庫」とはいかなる発祥を持つ金融機関なのかを知った。
信金は単に「規模の小さな銀行」ではなく、「お金というものが本質的に持つ弊害」に対抗し、地域社会を守るための組織を起源に持つのだ。
先代会長に「銀行に成り下がるな!」と一喝され、それを糧に現在も気概を持って経営にあたる著者が、昨今の様々なお金にまつわる事象を、極めて平易に読み解いてくれる。
最終章にはそうした信金の理念が脱原発宣言と整合性を持って紹介されている。
このブックレットも、上質な一コマの講義のような一冊である。
そして以下の二冊はこの十二月投稿の記事でも紹介してきた異能の語り部、広瀬隆の著作紹介の再録である。
●「原発ゼロ社会へ! 新エネルギー論」広瀬隆(集英社新書)
言わずと知れた異能の語り部、広瀬隆の最新刊である。
津波による原発事故の可能性を2010年に警告した広瀬隆は、3.11後も多くの著作を通して一貫した主張を行ってきた。
1、福島を中心とした汚染地域の子供たちを、一刻も早く国の責任において疎開させるべし。
2、全原発を即時停止し、燃料棒を抜き取るべし。
3、放射性物質は、一か所に大量にまとめてはならない。
4、全原発を即時停止しても電力が不足することは無い。
5、太陽光、風力よりも、ガスを中心にした最新の火力や燃料電池をまずは推進すべし。
今回の新刊では、これらの主張のうちの「4、5」の論点について、詳細に語り尽くしている。
電力会社の垂れ流す「電力不足」という恫喝を、誰にでも確認可能な公開情報を元に完膚なきまでに叩き潰す手際は、相変わらず痛快だ。
新書なので2〜3時間もあれば誰にでも通読でき、新エネルギー技術は既に実用化段階に達していること、日本の未来に対して原発は有害無益でしかないことがきっちり「実証」されている。
報道ぐるみで「脱原発による電気料金高騰」という悪質な虚偽情報が蔓延する昨今、この一冊はその嘘を暴く最強の照魔鏡として機能するに違いない。
全国民必読!
●「新エネルギーが世界を変える―原子力産業の終焉」広瀬隆(NHK出版)
3.11後の2011年刊。
前掲新書は、実はこちらの本の内容をコンパクトにまとめたものである。
新エネルギーの技術解説はこちらの方がはるかに詳しく、広瀬隆の「怒り芸」がちょっと苦手な人にとっては、むしろ本書の方が落ち着いて読めるかもしれない。
この本、特に後半の燃料電池に関する章を読んでいると、自身が技術者であった広瀬隆の、新技術に対する愛情と知的興奮が生き生きと伝わってくる。
広瀬隆は、もし原発という魔物と出会っていなければ、こうした技術解説の本を嬉々として書き続けていたのではないだろうか。
私は根っからの文系人間であるが、それでも子供のころは男子として当然、発明・発見の物語をこよなく愛していた。
幾多の技術者たちがしのぎを削って新しいものを創り出す過程は、久々に私の中の「メカ好き男子」の魂を呼び覚ましてくれた。
単なる反原発の次元を突き抜けて、技術立国日本の未来に実現可能な明るい夢を描かせてくれる好著である。
かつての「メカ好き男子」よ、今すぐ手に取るべし!
この年末年始、少し時間が取れるなら、これらの本を読んでみませんか!
