今回はテントのお話。
二十歳そこそこの頃から、熊野周辺の遍路を始めた。
その頃はアウトドアに関する知識も技術も何もなく、ただただ気になるルートを歩き続けるだけだった。
今も覚えている最初の遍路は、奈良県の五條から熊野本宮へと続く「十津川路」を辿った。
熊野の各古道経路については、以下の図を参照。クリックすると拡大します。
十津川路は、現在はほぼ国道に吸収されてしまっており、基本的には舗装道路を延々と歩くだけなので、とくに登山技術は必要ない。
ただ、歩道のない箇所が多いで、ドライバーの皆さんの邪魔にならないよう、また事故に遭う危険がないようを注意しなければならない。
夏季だったが、寝袋もなにも持っていなかったので、バス停や公園など、夜露をしのげる場所で野宿しながら、三日ほどで熊野本宮に着いたと記憶している。
二回目以降は、さすがに寝るための装備は考えるようになった。
ちょうどホームセンターで、2000円ほどの一人用の格安テントを売っていたので、試しに購入した。
使ってみると、テントというよりは「テント型のブルーシート」みたいな感じで、まさに値段相応の代物だった。
色も水色で、遠くから見るとまるでゴミ袋が放置してあるように見えた(笑)
とにかく「安いこと、軽いこと」だけが取柄で、一度雨に降られたときは速攻で雨漏りした。
そんな「テント型ブルーシート」であっても、私の場合はそもそも何にも持たない野宿から出発しているので、屋根が見当たらない所で夜露が防げるだけでもありがたかった。
それなりに気に入って使っていたのだが、別れは突然訪れた。
あるとき、人里近い川原に設営して、あたりを二時間ほど散策して帰ってくると、きれいさっぱり消失していたのだ。
盗まれたのかもしれないが、「ゴミ袋と間違えて回収されたのではないか?」という疑問を、私は未だに打ち消せずにいる……
3.11以降、防災グッズを探している時に、この懐かしの「テント型ブルーシート」によく似たものを見つけて、思わず笑ってしまった。
●GIGANTIC TREE ドームテント
形や色は多少違うけれども、値段といい、性能といい、そっくりである。
屋外用のテントとしてはまともに使うことはできないと思うが、防災グッズとしてなら使い道はある。
ドーム型なので、ペグを打たなくても自立することから、災害時に体育館などの屋内避難所で設営すれば、プライベートの確保に役立つだろう。
私は阪神大震災の被災者でもあるので、混み合った避難所で、一応人目を避けられる空間のありがたさは、よく知っている。
防災グッズとして考えるならば、この手の安価なテント(?)のコンパクトさと軽量さは、持ち運びの際の利点になり得る。
折紙つきではないけれども、
「まあ、高いもんじゃないし、今現在テントが家にないなら、いざという時の備えに一つ持っておいてもいいんじゃない?」
という程度にはお勧めできる。
大した品ではないと知りつつ弁護してしまうのは、私の中に懐かしの「テント型ブルーシート」への愛着が、まだ少しばかり残存しているせいかもしれない……
私の初代テントは、遍路の途上で「行方不明」という結果に終わった。
二代目はさすがにもう少しマシなのを買おうということで、一応アウトドアメーカーのものを購入した。
現在でも、仕様は多少変わっているようだが、同等製品は販売されているようだ。
●LOGOS ツーリングドーム
一人用テントとしては十分な品質で、さほど高価でもなく、収納時の体積・重量も、なんとか背負って歩ける程度。
私の遍路旅には条件がよく合っていたので、けっこう長く使っており、今でも使用可能。
フライシートの面積が小さいので結露はあるが、ソロテントの定番の一つではないかと思う。
ただ、私の熊野遍路が回数を重ね、経験値があがってくるにつれ、テントを担いでいく頻度は徐々に減っていった。
各地の快適な「野宿ポイント」がわかってくると、「屋根」の必要性が減ってきて、寝袋とブルーシートがあれば大体事足りることが分かってきたためだ。
このあたりは本格的な「登山」と違い、人里からあまり離れることがない「遍路」の特徴だ。
考えてみれば、昔のお遍路さんも、基本は野宿だったことだろう。
それで野垂れ死にした人も多かっただろうけれども。
死なない程度になるべく昔の人に近い遍路を志す私は、なるべく荷物を少なく、シンプルにする方向に進んできた。
そんな私にぴったりな装備を、最近一つ見つけた。
以下、次回。
【追記】
上の方で紹介した「テント型ブルーシート」だが、写真整理をしていたら、何枚か撮っていたものを見つけた。
もう20年ほど前になるか、私がはじめて所有し、すぐに失ったたテントだ。
この写真を見ること自体が10年以上ぶりだと思う。
構造などは全く忘れてしまっていたが、写真から判断すると一応ドーム型で、ポール1本ペグ4本で固定するタイプのようだ。
自立はしないだろうが、とにかく軽そうだ。おそらく1.5キロ以下だろう。
まだアウトドア初心者の頃で、夜中に雨漏りして途方にくれたのも、今はいい思い出だ……