残りわずかとなった今年2013年も、多くの著名な皆さんの訃報が相次いだ。
個人的に、とくに思い入れのある人々について、書き残しておきたい。
【金子隆一さん】
神仏与太話を標榜する当ブログ読者の皆さんにはあまり馴染みのない名前かもしれないが、とくに恐竜や古生物に造詣の深いサイエンスライターだった。
私は子供の頃から古生物ファンだったのだが、90年代ごろから金子隆一さんの著作がきっかけで、そのマニア心が再燃した。
●「新恐竜伝説」金子隆一(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
氏の主導する伝説の恐竜マガジン「恐竜学最前線」を舐めるように熟読し、文字通り古生物学の最前線に、子供のころ以来の知的好奇心を刺激される日々を過ごした。
ちょうどそのころ、一めぐり前の辰年には、こんな年賀状も作成した。
今思えば、私は古生物学という名の、精緻で魅力的な「創世神話」に心を躍らせていたのだろう。
今年8月、享年57歳。
早すぎる逝去だった。
【松田隆智さん】
中国拳法の研究家で、自身も様々な武術を身につけておられた。
ご本人も認めておられた通り、一般的な代表作はやはりマンガ「拳児」になるだろう。
私も中高生の頃、少年サンデーに連載されていたこの作品をリアルタイムで読み、のちに松田隆智さんの著書も読むようになった。
●「拳児」原作:松田隆智 マンガ:藤原芳秀
拳法や武術をテーマにしたマンガは数あれど、描かれた武術に本物のリアルさを感じさせられるものは数少なく、この作品はその頂点に位置するだろう。
武術描写のリアルさだけでなく、一人の少年の成長物語としても素晴らしい。
力を身につけることは戦いを招き寄せることにもつながるのだが、力の魔力に飲み込まれることなく、まっすぐな心を持ち続けることの大切さが、繰り返し描かれている。
武術に限らず何かを身につけようとするとき、その精神において注意すべき示唆が全編にちりばめられているので、志のある少年少女はこの作品に目を通すべきだと思う。
また、台湾や中国本土に今も残る、互助的なネットワークの描写も非常に興味深い。
【三國連太郎さん】
このブログを続けてくる過程で、私は徐々に宗教・信仰と芸能の関係について、理解できるようになってきた。
古代から中世、近世、そして現代まで続く芸能の世界を考えるとき、以下の三人の「芸能人」の著書が非常に重要であることが分かってきた。
三波春夫
小沢昭一
そして、三國連太郎
三人のうち、存命だった三國連太郎さんも今年お亡くなりになってしまった。
映画俳優としては、以前紹介した「大鹿村騒動記」が、遺作から数えて二つ目にあたるようだ。
著書も数多いが、沖浦和光という異能の聞き手を得て、三國連太郎が自身の出自から語り起こした以下の対談本が、私は一番好きだ。
●「「芸能と差別」の深層」三国連太郎・沖浦和光対談 (ちくま文庫)
【やなせたかしさん】
いわずとしれた「アンパンマン」の作者である。
この方も、異能の人だった。
マンガ家のイメージが強いが、詩人であり、絵本作家であり、紙芝居作家であり、舞台美術もこなしておられたそうで、まさに「芸能人」だったのだろう。
作詞家としても「手のひらを太陽に」という名作を残しているし、アンパンマンの主題歌や挿入歌も数多く手掛けておられ、どれも大人が聞いても素晴らしい作品ばかりだ。
94歳でお亡くなりになる直前まで、バリバリの現役だったのも凄すぎる。
過ぎゆく年に、しばし黙祷。