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2014年05月07日

玄関のバケツ

 特設ブログで児童文学作品を連載している。
 実際に執筆したのはもうかなり前になるが、挿絵を描くために読み返していると、当時の気分がよみがえってくる。
 小学生が主人公の物語を書き続けていると、当然ながら自分が小学生の頃の記憶がよみがえってくる。
 すっかり忘れていたあれこれが、リアルな情景として脳裏に映し出される。
 そんな心の状態が、今また再現されている。

 小学生の頃の私は、よく無意味なマイブームにとらわれていた。
 低学年のある時期ハマっていたのが、カナへビを捕まえること。
 当時住んでいた家の近くには何ヵ所か建築資材置き場があった。その中のひとつに屋根瓦が積み上げられた一画があり、そこにはおびただしい数のカナへビがいた。
 カナへビというのはトカゲの一種。
 普通のトカゲより茶色っぽく乾いた皮膚感で、尻尾がものすごく長い。
 私は両生類的なぬめっとした皮膚感は苦手だったので、普通のトカゲはちょっと似た感じの光沢があって触る気がしなかったのだが、乾いた感じのするカナへビはわりと平気で捕まえていた。
 私が「猟場」にしていた瓦置き場は、それはもう半端じゃないほどウジャウジャいて、散らばっている石や瓦をひっくり返すと必ず大小おりまぜたカナへビが逃げまどった。
 それを捕まえては持参したポリバケツに放り込んで行く。
 捕ってどうする、という目的は一切ない。
 ただ目の前のカナへビを根こそぎ捕り尽くすことそれ自体が目的になっている。
 ある日私は、どこまで捕れるか極めてみたい気分になって、たった一人、小一時間ほどかけて捕りまくった。
 ポリバケツの中には、底が埋まるほどのカナへビが溜まり、ワサワサとうごめいていた。
 そのままではバケツの内側を駈け上ったカナへビが脱出するので、放り込む時以外は蓋をしている。
 蓋をしていても、中からわずかにカナへビたちのもがく「サササササ」というような音が聞こえてくる。
 なんとなく私はその音を聴きながら、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」に出てくるような地獄の様子を想像している。

 普段なら狩猟本能が十分に満たされた時点でバケツをひっくり返し、一斉に逃げ去っていくカナへビたちの姿を眺めてカタルシスを味わい、完結する。
 しかしその日の私は常になく溜まったカナへビを「もったいない」と思ってしまい、血迷って蓋を閉めたままのバケツごと家にもって帰ってしまった。
 さすがに室内には持ち込まなかったが、玄関先にバケツは放置され、次の遊びに移行した私は速やかにそのバケツのことは忘れ去った。

 ところで当時、私の家は両親が共働きだったので、まだ低学年の私と弟の面倒を見るために、母方のおばあちゃんが午後の時間帯は来てくれていた。
 その日、おばあちゃんがうちに到着すると、玄関先に意味ありげに蓋を閉めたポリバケツが置いてある。
 中からはわずかに「サササササ」という音も聞こえる。

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 そしておばあちゃんは、その蓋を開けてしまった。



posted by 九郎 at 22:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 原風景 | 更新情報をチェックする

2014年05月21日

明日完結!

 現在、特設ブログにてジュニア小説「図工室の鉄砲合戦」公開中!
 いよいよ明日、完結!

 以前ご報告しました通り、昨年募集された「第二回角川つばさ文庫小説賞」に、児童文学作品「図工室の鉄砲合戦」を応募したのですが、残念ながら最終選考4作品には残ることができず、二次選考通過17作品の内の一作に入るにとどまりました。
 今回は「決勝進出ならず」という結果に終わったのですが、けっこうメジャーな文庫の登竜門で二次選考まで進めたこと、作者本人としてもかなり気に入った作品であることから、何らかの形で日の目を見せてあげたいなと思っていました。
 ただ今回は二次選考通過ということで、作品名とペンネーム(烏帽子九郎)が公開されており、この状態で他の新人賞に再応募というのもちょっと難しいかなという気もします。
 作品は他人様に見てもらってはじめて完成。
 誰にも見られないままの状態で後生大事に抱えていても、価値がありません。
 こういう場合、一昔二昔前なら同人誌や自費出版しかありませんでしたが、けっこうなコストがかかるわりに、あまり広くは読んでもらいにくいという重大な欠点がありました。
 今ならいっそのこと、ネットで公開してしまうのが一番手っ取り早く読んでもらえるのではないかということで、特設ブログの開設を思い立ちました。
 この形なら、一応絵描きのハシクレでもある私が、自作イラストをたっぷり描いて添えることも可能です。
「図工室の鉄砲合戦」は、字だけでなく図解を大幅に添付してこそ真価を発揮するものだとも思っています。
 そしてこの物語の内容を、文字になっていない部分まで含めて一番知っている絵描きは、私をおいて他にありません。(←あたりまえ)

 今回の応募作「図工室の鉄砲合戦」は、一応対象読者として小学高学年〜中学生くらいを想定していますが、雑賀鉄砲衆や本願寺寺内町、石山合戦など、当ブログではお馴染みのモチーフも主要なテーマになっています。
 神仏与太話「縁日草子」の読者の皆様なら、年齢に関係なく楽しんでいただけることと思いますので、是非一度特特設ブログ「放課後達人倶楽部」をのぞいてみてください!
 行く行くはこの作品以外にも、手持ちの児童文学系の作品も公開していければいいなと思っています。

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【「図工室の鉄砲合戦」目次】
前口上、絵図、第一章「それぞれの朝」
第二章「出遅れた新学期」
第三章「マンガ部と達人クラブ」
第四章「戦国まつり」
第五章「寺内町と鉄砲衆」
第六章「開戦前夜」
第七章「図工室の鉄砲合戦」
第八章「浦小鉄砲合戦始末記」、あとがき
posted by 九郎 at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | ブログ・マップ | 更新情報をチェックする

2014年05月24日

2014年05月31日

これからも長い道連れ

 一週間と少し前の週末、やってしまった。
 例の胃腸炎だ。
 それも、過去最大級の重症。
 一晩たっぷり苦しみ、近所の病院が開くと同時に駆け込んで応急処置をしてもらった後も、丸三日間ダウンした。
 固形物が喉を通るには更に二日を要し、今はようやく復調しつつある。

 症状自体はもう自分でよく分かっており、近所のお医者さんも「ああ、あれか」という感じで迅速に対応してくれたのだが、ちょっと気になることもある。
 前回からの間隔が約二ヶ月と短いことと、仕事中に発症してしまったことだ。
 これまでの経験で言えば、同様の症状が出るのは1〜2年に一度の頻度で、それも仕事が一段落して気が緩んだ時期を狙いすますように発症していたのだが……
 タイミング的には、特設ブログで連載していた作品に関する作業を終えた直後である。
 しかし私も一応オトナであるので、そーゆー「不採算部門」が原因で体調を崩したとあっては情けないし、恥ずかしく、認めたくない(苦笑)
 この4月からかなり仕事のシフトが変わり、心身ともに疲れがたまっていた所に、最後の一押しとして特設ブログの件があったと解釈したいところだ。

 仕事中のダウンとはいえ、最後の一時間だったことと、ちょうど週末と重なったこと、たまたまその後も他の人と交代可能な組み合わせだったことなどから、仕事上の影響は最小限に抑えられた。
 このあたり、私の体の持つぎりぎりの「意地」がうかがえるが、まあ何にしても今回はダメだった。
 反省しなければならない。

 記憶する限りでは、この胃腸炎とは中二の頃からの付き合いである。
 放課後、居残り学習をさせられている最中に激しい腹痛でダウン。
 完全に盲腸だと思われて病院に搬送されたが、胃腸炎だとわかってそのまま一泊入院したのが、なれ初め立ったと思う。
 あれからもう、数えきれないくらい同様の腹痛を起こしてきた。
 若い頃は医者にも行かずにやり過ごしてきたが、ここ数年は体力的にきつくなったので無理せず医者にかかる。

 今回は発症のタイミングが、ちょうど医者の閉まる時間帯だったので、翌朝までたっぷり苦しむことになった。
 耐えきれなくなって夜間診療所にも駆け込んでみたが、出してもらった経口薬が全く効かず。
 そもそも何か飲んでもすぐ吐いてしまうので、点滴で入れないと無理ではないかと思うと診療所の先生にもお伝えしたのだが聞き入れてもらえず。
 経口薬だけ出されて、「大丈夫大丈夫」とそのまま帰されてしまった。
 これまでの経験から、まったく大丈夫ではないのがわかりきっていたので、少からず絶望的な気分になる。
 這うように帰宅後、わずかな望みをかけて薬を飲むが、やはり効かず。
 結果的にはなんの症状改善もないままに十数時間苦しんだことが、重症化を招いてしまった。
 まあ、夜間診療所にも色々事情はあるとは思う。
 しかし、こちらも昨日今日の胃腸炎患者ではないのだが。。。

 極力避ける努力はするけれども、私はこれからも何度となくこの「長い道連れ」と付き合っていくことになるのだろう。
 もしかしたら、年取って死ぬときには、この胃腸炎あたりが死因になったりするかもしれない(笑)
 
 腹痛さん、腹痛さん。
 縁を切ろうとは望まない。
 一生付き合う覚悟はあるから、今後は一つ、お手柔らかに。
posted by 九郎 at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 身体との対話 | 更新情報をチェックする