2014年07月30日

蝉時雨追想

 もう何周目か定かではないけれども、マイ長渕ブームの真っ只中である。
 数年に一度、このマイブームは訪れる。
 ここしばらく毎日毎日飽きもせず、ウォークマンで聴き続けている。
 少し前までは、まったく種類の違う音楽を聴き狂っていたのだが、針が逆方向に振れ始めているようだ。

 私は中高生の頃から長渕ファンだったのだが、常時聴き続けるタイプではなく、数年に一度、波長の合った時だけ短期集中で聴き狂うタイプだ。
 がっちり歯応えのある音と言葉の世界を腹一杯貪って飽和したら、またしばらく一切耳に入れない時期が続く。
 カラオケの持ち歌もいくつかあるが、普段は歌わない。
 だってカラオケでナガブチは、まわりの目が気になるじゃないですか(笑)

 長渕剛という異能の語り部については、以前にもかなり長い記事を書いた。

 狂気を封じる鎧1
 狂気を封じる鎧2
 狂気を封じる鎧3
 狂気を封じる鎧4
 狂気を封じる鎧5

 自分の中では十分に語り尽くしてもう何も出てこないのだが、この一ヶ月ほどアクセス解析で上掲記事の閲覧がけっこう増えていた。
 何事かと思ったら、ナガブチのベスト盤が出ていた。


●「Tsuyoshi Nagabuchi All Time Best 2014 傷つき打ちのめされても、長渕剛。」 (初回生産限定盤)(DVD付)

 そう言えば、近所のローソンでツアーのポスターが貼ってあったり、「語録」が並んでいたりしてたっけ。
 ローソンは以前から何故か「長渕推し」だ。
 ファン歴こそ長いけれども、私は期間限定の断続的な聴き手なので、常に注視しているわけではない。
 だから長渕の動静はけっこうローソンの店頭ではじめて知ったりする。

 ベスト盤かあ……
 それなりの枚数、長渕剛のCDを持っている身からすると、ちょっと微妙なのである。
 ベスト盤となると、どのアーティストでもシングルコレクション的なものになりがちだ。
 まあライトなファンにとってはお買い得感があるかもしれないが、同じような曲調が十数曲続いたりして、まとめて聴くには苦しかったりする。
 ラーメンにたとえると「チャーシュー15枚のせ」みたいな感じになって、ちょっとキツい。
 長渕剛の場合、ファンに長く愛されている曲はシングルカットされていないものも多い。
 シングルコレクションではなく、そういうアルバム曲が多数収録された場合であっても、それはそれで濃い曲ばかり集まった「ナガブチ特濃絞り汁」みたいな感じになって、キツいのである。
 しつこくラーメンにたとえると「トッピング全部のせ」状態で、自分が今何を食っているのか分からなくなり、若い頃に比べめっきり食の細くなった身にはしんどいのである。
 当たり前だが、それぞれの曲はそれぞれが収録されたアルバムの中で、ストーリーに沿って聴くのが一番だ。
 
 ただ、今回のベスト盤は4枚組ということで、シングル曲もアルバム曲も一応CD一枚ずつの起承転結は考えて収録されているようだ。
 昔の曲のリメイクはなく、昔のあのバージョンのまま、音質だけ現在のレベルにリマスターされているのは良い選択だと思う。
 ナガブチの場合、リメイクすると曲が全く別物になってしまいがちで、今回のように「昔のまま収録」の機会はかえって貴重だ。
 今の各種再生機器に相応しい音質で昔の名曲をまとめて入手したい人には、チャンスかもしれない。
 
 正直、古くからのファンには「今さら」感の漂うベスト盤なのだが、そこらへんはちゃんと対応策がとってある。
 初回限定盤に、かなりレアな映像が収録されたDVDがプラスされている。
 このDVD、単なるオマケとあなどるなかれ、とくに80年代後半のナガブチにハマった人間は、何をおいても入手すべき秘蔵映像なのだ。
 アルバム「Stay Dream」ツアーの新発掘ライブ映像だと聞けば、それだけで心がざわつき始めるアラフォーはけっこういるだろう。
 なんのことか分からない人は、以下の文章を読む必要はない。
 ある特定の年代に向けた、半ば私信のような内容になる(笑)

 あの頃、私には一人の友人がいた。
 海辺の街で一人暮らす、ハックルベリー・フィンみたいな少年だった。
 別に孤児というわけではなかったが、親元から離れているということと、孤独を愛するキャラクターがハックやスナフキンを思わせたのだ。
 この友人のことは、上掲の長渕剛関連記事やその他で、何度か取り上げてきた。
 実際によく遊んでいた期間は中高生の頃の一年間くらいなのだが、私の中で一番影響を受けた友人の一人である。
 実はいまだにその影響は続いている。

 カテゴリ「どんと」
 竜巻追想

 感性が鋭くて、同世代で一人だけ、別の世界を眺めているような少年だった。
 私はそんな彼の趣味嗜好に関心があって、よく海辺の部屋に遊びにいっていた。
 漫画や小説、音楽など、彼の部屋ではじめて手にとって、後に私のフェイバリットとなったものは数多い。
 書いていて思い出したが、大友克洋も平井和正も、最初は彼の部屋で読んだのだった。
 その中に長渕剛のレコード(!)もあった。
 そう言えばあの頃が、ちょうどレコードからCDへの移行期だった。
 彼のレコードを原盤にダビングした長渕のテープは、仲間内みんなが所持していた。
 ギター弾きでもあった彼は長渕のギター教本を持っていて、そこからコピーさせてもらったコードネーム入りのページを歌詞カードがわりに、毎日日課のようにテープを聴き込んでいた。
 自分でもギターを手に取り、好きな歌を口ずさむ伴奏程度にいじって遊び始めたのもその頃だった。
 これも、今に続く私の趣味のひとつである。
 
 当時は長渕剛のキャリアの中でも一番の転換期にあった。
 後のインタビューで、長渕自身が「二度目のデビュー作」というニュアンスで語っているアルバム「Stay Dream」がリリースされたあとで、これも後に「伝説」と呼ばれるようになったギター一本の弾き語りツアーがはじまっているタイミングだったと記憶している。
 あの頃、アコースティックギター好きの人間はみんな長渕に注目していたと思う。
 尾崎豊も活躍していたが、私の仲間内では断然長渕だった。

 その年の年度末あたり、かの友人が学年末試験の直前に長渕のライブに行った。
 今から振り返ってみると、長渕の熱心なファンが「あの伝説のツアー」を体感するためなら、試験勉強を投げるのも十分「あり」だと思う。
 しかし、自分が見に行こうとしているライブがそのような「伝説」になるかどうかなど、事前に予測できるわけがない。
 学校生活が生きることのほとんど全てであるような年若いファンに、そのような選択をさせてしまうほど、当時の長渕には「何かが降りてきていた」ということだろう。
 かの友人の鋭敏な感覚が「何をおいてもこれは見ておかなければならない」と告げたということもあっただろう。
 その後、友人は諸事情で転校していき、私と彼の交流も一旦途絶える。(その後、思わぬ形で再会することになる)

 長々と何を書いているかというと、今回リリースされた長渕のベスト盤の初回特典DVDが、その「伝説のツアー」を収録したものなのだ。
 伝説とまで呼ばれながら、今まで映像も音源もあまり出回らなかったライブが、ついに公式に発表されたのだ。
 収録されているのは追加公演分なので、まさにかの友人が見に行ったライブそのものである可能性もある。
 私の中に少しばかりは残っている「いつかの少年」の部分が、ざわざわと蠢き始めるのである。

 実は私は、その当時のライブを収録した録音テープは持っていた。
 別に違法なものではなく、FMの音楽番組で放送されたライブの模様をエアチェック(この言葉も懐かしい!)したものだ。
 今でも探せばどこかに残っているはずで、「そろそろデジタル化しないとな」と思い続けてもう何年も経つ……
 弾き語りアレンジの各曲はどれも絶品だったし、ラジオ番組の女性司会者との会話も良かった。
 当時流れていた長渕剛ナレーションのカップヌードルCM「おーい、トム・ソーヤー」も挟まっていて、時代の空気をそのまま詰め込んだ、私の宝物のような録音テープだった。
 友人の去った後、元々持っていた孤独癖が更に強まった私は、いつまでも飽きずに繰り返しそのテープを聴いていた。

 初回特典DVD目当てに、ベスト盤を買った。
 映像を見ながら、色々記憶がよみがえってくる。
 「一人美術部」として夏休み明けの文化祭展示に備え、ひたすら絵を描き続けていた8月も、あのテープをずっと聴いていた。
 
 今でも私は、夏の間には何かまとまった作品を手掛けなければならないような強迫観念が残っている。
 

 試験勉強もしないといけないのだが(笑)
posted by 九郎 at 00:32| Comment(0) | TrackBack(0) | カミノオトズレ | 更新情報をチェックする