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2015年04月21日

マイ・フェイバリット・マンダラ1(加筆あり)

 このようなブログをやっているからには、仏教美術全般なんでも好きなのだが、いくつかのとくに好きなマンダラがある。
 いずれも「このマンダラの感動を自分なりの形で表現したい」という衝動を呼び起こす、刺激に満ちた図像だ。
 
 まず一つめは、京都の東寺所蔵の「伝真言院曼荼羅」と呼ばれる両界曼荼羅のうち、とくに胎蔵界曼荼羅の方。
 教科書にも出てくるので、マンダラと言えばこの図像を思い浮かべる人が多いのではないかと思う。
 下記の資料の中から、図像の概容がわかる程度に縮小して画像を引用しておこう。

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 所蔵されている東寺の宝物館で何年かに一度は原本が公開されているようで、私も今までに何度か拝観した。
 まさに今現在も公開中(胎蔵界は今週までか?)なので、関心のある人はお勧め。

 原本公開期間が過ぎても、原寸大の複写は宝物館に常設されている。
 原本はもちろん素晴らしいのだが、製作年代は平安時代。
 ものすごく正直に言うと経年変化で絵の具の色それなりにくすみ、剥落している。
 公開期間中もガラス越しの鑑賞になる。
 貴重な文化遺産なので仕方のないことだが、適切に補正された複写や、各種図版での鑑賞の方が分かりやすい面もあるのだ。
 最近はCG技術の発達により、歴史的建造物や古美術作品の、完成当時の色彩を再現する試みが相次いでいる。
 この曼荼羅なども、ぜひそうした再現がなされてほしい作品だ。
 透過光の大型画面で鮮やかな色彩が再現されたら、この曼荼羅の素晴らしさが一層際立つのではないかと思うのだ。

 原本であれ複写であれ、縦183.6cm横164.2cmの図像の正面間近に立ち、視界を曼荼羅世界で埋めてみる経験は、なかなか得難いものがある。
 まずは東寺に足を運ぶべしである。


 細部を鑑賞するならむしろ図版の方が良い。


●「東寺の曼荼羅図 みほとけの群像」
 東寺宝物館から出ている図録で、所蔵の両界曼荼羅緒本や、その他の曼荼羅図が豊富な図版で収録されている。
 とくにこの記事でテーマとしている「伝真言院曼荼羅」については、全体像と各部の拡大画像で紹介されているので、まずはこの一冊から求めるのが順当。
 上のアマゾンリンクでは高い値段がついているが、東寺に行けば(確か二千数百円程度の)定価で売っているだろうし、関西の大型書店では最近でも取り扱っているのをけっこう見かける。
 また、東寺では鮮明な印刷の両界曼荼羅大型ポスターも、高くない値段で売っている。


 意外に良いのが以下の一冊。


●「あなただけの般若心経」(小学舘)
 本来はタイトル通りの般若心経の解説本なのだが、この記事テーマの伝真言宗院両界曼荼羅の要所各部を、それぞれ1ページ大に拡大して挿画にしてある。
 印刷の色味はやや黄色が強く、原本の印象とは少々異なるが、原本の持つ華やかで楽しげな仏菩薩の雰囲気はよく伝わってくるので、補正の方針としては悪くないと思う。
 細部を検討したいなら、この本が一番手頃だと思う。


 両界曼荼羅図には、サイズ的にもっと大きなものや保存状態の良好なものが各種あるが、とくに胎蔵界曼荼羅は、原典となったこの図像がやはり唯一無比だ。
 時代が下った作品は描写は精密になるけれども、その分原典の持つダイナミックな迫力、「宇宙大の祝祭」のイメージは薄れていく。
 この原典では、ラフで素朴な筆致で描かれた仏菩薩や尊像、天部の神々や魔物たちが、一堂に会して盛大なパーティーを楽しむように舞い踊っている。
 中台八葉院は、まるで電飾が仕込まれているかのように本当に輝いて見える。
 中心部の赤ん坊のような大日如来から放射される光が八方に広がって仏菩薩になり、仏の宇宙が拡大し、神々や魔物も含めた全宇宙が生成されていく様が、直感的に伝わってくる。

 曼荼羅図像の生命力と言う点では、やはりチベット文化圏が本場なのだが、彼の地で主流の後期密教の曼荼羅はほとんど全てが金剛界の流れを汲んだものだ。
 胎蔵界に限って言えば、中期密教を受け継いだ日本の曼荼羅が素晴らしいのである。
posted by 九郎 at 08:20| Comment(0) | TrackBack(0) | マンダラ | 更新情報をチェックする