夢を見た。
もうすぐ津波が来る。
こうしてはおれない。
自室を後に、山手へと急ぐ。
逃げている間にも、じわじわ水位は上がってくる。
水にはどんな黴菌が混入しているか分からないので、少し触れただけでも危険なのだ。
息を切らせながら坂道をのぼる。
水はすぐ背後からじわじわ迫ってくる。
山の中腹辺りに、古代遺跡のような石組の巨大建築物がある。
山の斜面に沿って石室が連続し、電柱のような石塔がニョキニョキと林立している。
塔の上なら毒水に濡れる心配はないだろうと、ともかく急いでよじ登る。
辺りには同じように塔によじ登って緊急避難している人がたくさんいる。
塔は石積みなのでややぐらつき、安定感に欠ける。
息を詰めてバランスをとる。
ひたひたと水は押し寄せてくる。
よじ登ったすぐ足元まで水位は上がったが、そこから突然反転して一気に引いていく。
やれやれ、あぶなかった。
これで一安心だ。
山から海への傾斜のため、道路という道路は流れの急な川となり、ミルクティー色の泥水がざあと流れていく。
完全に水が引き、乾燥するのを待って塔から下りる。
湿っている所はまだ黴菌がいるので危険だ。
注意深く乾いている道だけを選んで自室へと戻る。
緊急避難から戻ってきた人々が、しきりに噂話をしている。
なんでも、隣の地区にある動物園の動物たちが津波の水にさらわれて逃げ出したらしい。
こちらの地区の海岸からも続々と猛獣たちが上陸してきているということだ。
厄介なことになった。
不安を感じながら坂道を下りる。
曲がり角がある。
こんな所でトラに出くわしたらたまらんなと思う。
案の定、出くわす。