夢を見た。
高校時代の友人Tと外出した帰り。
地下鉄の駅へと発車時刻を気にしながら走っている。
券売機の周りに知り合いが何人か座っている。
Tとともに鞄をおろし、その輪に入る。
券売機の横には薄汚れたショーケースがあって、中にはいかにも年代物のギターなど、弦楽器がたくさん並べてある。
もし安くていいものがあれば買おうかと覗きこむが、ガラスの汚れで値札が読みとれない。
見る角度を変えてみて、ようやく二つ三つ読みとれる。
大型の古くて渋いギターが五百八十円。
無茶苦茶な値段である。
何か理由があるのだろうか、事故車みたいなものか、と考えていると、その横には三百六十円の真っ黒なギターが掛けてあった。
こちらも大型だったが、見るからにプラスチック製であり、形も「未来に流行る楽器」を絵に描いたようで、胡散臭いことこの上ない。
構えたときの下の位置には機関銃の持ち手のようなものが付いており、普段は収納可になっている。
これでは三百六十円でも仕方がないが、恥ずかしながらちょっとだけ欲しくなった。
みんなに気付かれないように、そっと店に入る。
鞄がそのままだが、Tがなんとかしてくれるだろう。
意外に若い店員が奥の方に座っている。
中は思ったより広く、弦楽器ばかりが所狭しと並べられている。
大きいのから小さいの、ギターからマンドリン、名前もわからないような民族楽器まで色々あって目移りする。
もう「未来の楽器」などどうでもよくなった。
胴の丸い、弦が十本以上張ってあるのを見つけて、「これはどうやって弾くんですか」と若い店員に尋ねると、器用に弾いて見せてくれた。
十数本の弦のあちこちを三四本ずつ弾くと、コード奏になるらしい。
値段は七千円。
少々値が張るが、もちろん楽器としてはかなり安い。
試しに弾かせてもらうと、いきなり弦が切れてしまう。
店員は「弦が細いからね」と苦笑したが、とくにそれ以上は何も言われなかった。
隣にあった三角形の胴の小型四弦楽器は、なんとなくウクレレのようにいじってみるとけっこう弾けた。
値段も三千円なので、これを買うことに決める。
券売機にたむろしていた知り合いたちが、どやどやと店内に入ってくる。
バンドをやっている奴がいるので、楽器を物色しに来たのだろう。
Tは先に帰ったそうだ。
置いてきた鞄はどうなったのだろう。
みんなに例の「未来楽器」のことを教えてやろうとショーケースを振り返ると、もうすでに売れてしまっていた。
誰だ。