夢を見た。
夜中に部屋の掃除をしている。
入口ドアの横に、今まで使っていなかった押入れぐらいのスペースがあるのを発見した。
この部屋に住んでもう長いのに、こんなスペースがあったとは知らなかった。
夜も遅いので隣に気を使いながら片づける。
明け方近くになってようやくきれいになった。
雨が降ってきたので洗濯物を取り込み、ひと眠りする。
本屋の夢を見る。
付き合っている女の子と、新しい本屋で立ち読みしている。
雰囲気、品揃えともに中々だ。
場違いなおっちゃんが入ってきて、しばらくその辺りをうろついてから、「煙草を吸わないと落ち着かない。どこかで吸えないか」と店員に聞く。
頭の薄い店員が「それなら倉庫がいい」と、若い女の店員に案内させようとする。
ドアをノックする音で目が覚める。
付き合っている女の子が来ている。
夜半に来る約束をしていたのに、僕が忘れてしまっていたらしい。
返事をすると「なんだ居るじゃないか」と、表に待たせてある友人たちを呼びに行く。
そうか、みんなで来る約束だったのか。
片付けておいてよかった。
ドアの鍵を開けようと入口まで行くと、何か部屋の様子がいつもと違っている。
白い壁のはずが、茶色の土壁のようになっている。
部屋も二階のはずが一階になっている。
何が起こっているのかと、ドキドキする。
入ってきた友人たちに、部屋の様子がおかしい、前からこうだったかと聞くと、こんな感じだった、何がおかしいのかと答える。
答える友人たちの様子がすこし記憶と違う気がして、ぞっとする。
女の子は僕の知っているそのままの様子だったので、どう思うかと聞くと黙っている。
きっとおかしいと思うのを隠しているのだ。
素知らぬ顔で、取り込んだばかりの洗濯物を畳んだりしている。
おかしい。
こんなはずはない。
友人の一人は「おまえがどっかおかしくなったんじゃないか」と笑う。
腹が立ったのでチョークスリーパーを掛ける。
ふと窓の外を見ると、一階なので通行人の姿が見える。
もう朝になっている。
通勤通学の時間帯で、人通りが激しい。
何故か、高校時代の知り合いの姿をたくさん見かけ、ああ懐かしいなと思う。
僕の様子に不審を抱いたのか、友人たちは女の子とともに「ちょっと外で話そう」と、連れだって出ていく。
時刻は午前九時三十分ちょっと前。
友人たちと女の子は、何かしゃべりながら窓の外の通勤通学路の、その先に広がる草原を進んでいく。
僕は一人、路に立ってそれを見送っている。
おかしい、こんなはずではない。
時刻は九時三十分になった。
ああ、発車時刻だ。
不意にそう気付いた。
急がなければ。
急いで部屋に戻らないと、元に戻れなくなってしまう。
草原を進む友人たちに、別れとお礼の言葉を叫ぶ。
多分もう会うことは無いのだ。
お世話になりました。
そうだ。
女の子はどうなるのだろう?
哀しくなって、女の子の名を呼びながら、「必ずまたここに来るから」と叫ぶが、多分それは無理だとわかっている。
女の子が駆け寄ってくるが、押しとどめて向こうに帰す。
下手をすると、お互い戻れなくなってしまう。
女の子はうなずいて「お兄ちゃん、元気で」と言う。
ああ、そうだったのか。
疑問が晴れる。
急いで階段を上る。
部屋が二階になっている。
たすかった、元の部屋だ。
隣室の友人がちょうど返ってきたので、顛末を話す。
怖かったぞ、と言うと、うん、怖いなあ、そう言うのが一番怖い、と答える。
ほっと一息つきながら、自室のドアを見ると、おかしな張り紙がある。
何か意味のわからないことが、紙いっぱいにごちゃごちゃと書かれている。
根気よく読むと、どうやら家賃をためているので、毎日廊下掃除をしろというような意味のことが書かれているらしい。
日付は九月十八日になっている。
今はもう十一月のはずだが、こんな張り紙には今初めて気がついた。
不審に思いながら、周りの様子をよくよくうかがってみると、また少し違った情景になっている。
ブルッと身震いする。