「おれって、入門書探しが上手いな……」
そんな自惚れを抱くようになったのはいつ頃からのことか。
少なくともこの二十年ほど、自惚れっぱなしだった気がする。
読書家の部類には入ると思うが、決して勉強熱心ではない。
本質的には不精者なので、読んで面白い本しか読めない。
いくら内容的に確かな本でも、面白くないものを我慢してまでは読まない。
そんな私なので、何らかのジャンルの入門書を求める場合も、まず読んで面白そうなものから探す。
概説的に情報を並べただけの本は、いくら内容が正確で包括的であっても通読できない。
多少内容に偏りがあっても、著者個人の思い入れとか息づかい、血肉になった体験が語られる本が好みだ。
そういう本でそのジャンルの楽しさのコアを掴んだ後でなら、概説的な解説本も読める。
そのようなスタートダッシュを切れる面白い本を探すのが上手いと、自惚れているのだ。
私の主要な興味の対象に、民族音楽や民族楽器、楽器の場合は特に弦楽器がある。
音源を漁ったり、雑貨店などで玩具楽器を集めたりしている内に、いつのまにか自分でも楽器工作をやるようになった。
最近よく聴いているのは浪曲や盲僧琵琶で、弦楽器を伴奏にした語り芸にハマっている。
だから琵琶や三味線のルーツが気になり始めているタイミングで、ちょうど良い本に出会ったので、紹介しておきたい。
●「幻の楽器を求めて―アジアの民族音楽と文化探究の旅」田森雅一(ちくまプリマーブックス)
著者はジャーナリスト、エディター。
インド旅行をきっかけに「サロード」という民族楽器の演奏を学び始めたという。
インドでも演奏者の少ない楽器を学ぶ中で、その楽器のルーツをたずねる長い旅が始まる。
起源を求めて「ラバーブ」、そして古代楽器「火不思(かふし)」の謎を辿るうちに、日本の三味線との関連まで浮上してくる。
その旅の果てに、著者は「そもそも楽器のルーツとは何なのか?」という根本的な問いに行き着く。
楽器というものは、それ単体で存在するのではなく、奏でる人や奏でる曲、奏法と共にある。
場合によっては、楽器、奏法、曲、奏者、すべての伝来ルートが別々ということもあり得るのだ。
楽器を通して、広大なアジアの文化を夢想できる内容で、二週間ほど読みふけってしまった。
アジアの民族音楽に関心のある人は、必読である。