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2016年11月28日

「当てもん」の達人2

 私の小学生の頃の友人・バンブー(仮名)は、「当てもん」の達人だった。
 1980年代初頭の駄菓子屋的なお店の店先で、私が特別に伝授された彼の秘術の一端を、差支えない程度に紹介してみよう。
 当時はガンプラブームの真っ只中。
 模型店ではないそうしたお店もガンプラを扱っていたが、何しろ品薄でプラモそのものはなかなか入荷されず、たとえ入荷しても速攻で売り切れた。
 ガンプラそのものがなかなか手に入らないので、関連の「当てもん」が多数存在した。
 中でもガンダムのシーンをダイジェストしたシールブックや、ガンプラを送ってもらえる応募券が当たるチョコ等が一番人気だったと記憶している。
 当然、私たち小学生のターゲットも、第一はガンプラそのもの、第二はそうした関連商品になる。

 バンブーの秘伝は、まずお店の入荷日を知ることから始まる。
 私たちがよく通っていたお店は「前田」という、元々パン屋だったのが駄菓子屋的に収斂進化したお店だった。
 例えばその「前田」というお店であれば、バンブーの綿密な観察によると、毎週木曜日が「本業」のパン以外の雑貨の入荷日になっていた。
 バンブーの教えによると、当り付きの商品は入荷した時点が一番賞品が残っており、その後はだんだん減っていって、入荷日から日が経つと、下手したら当りがなくなってるのに売り続けられている場合があるとのこと。
 だから、当てに行くなら入荷日をねらわなければ不利なのだ。
 他にも、箱詰めで入荷される商品の場合は、その箱を開封した瞬間でないと通用しない方法がいくつかあるそうで、ぜひとも入荷当日でなければならないのだ。

 ガンダムシールブックを例に、もう少し手の内を明かしてみよう。
 これは、三枚のシールが入った小封筒を買い、中身のシールの裏に「当り」と書いてあると、ストーリー順に貼れるシールブックがもらえる仕組みだ。
 バンブーの教えの基本は、「当てもんは工場で作られている」という大前提にあった。
 シールブックであれば、当りシールの入っている封筒は別ラインで作られていてるので、一見同じデザインに見えても微妙な違いがあるからよく観察しろというのだ。
 ホンマかいなと思いながら、入荷日の木曜日に開封されたばかりの箱の中の封筒を順に観察すると、たしかにいくつか、ある「違い」の認められるものがあった。
 それらをピックアップして店主である「前田のおばはん」に渡して代金を払う。
 ドキドキしながら中身をあらためてみると、全てではないが大体三分の一くらいの確率で「当り」が入っていた。
 これは全くの運まかせに比べると、驚異的な確率と言えた。
 バンブーと私は毎週入荷日の「前田」を襲撃して、シールブックの当りをほとんどさらってしまい、おばはんにいやな顔をされたりしていた。
 顔はしかめられたけれども、丹念に選んでいるだけで不正をやっているわけではなく、またバンブーと私は毎週いくらかの小遣いを使ってくれるお得意様でもあったので、追い出されたりはしなかった。
 余分にゲットしたシールブックをネタに、バンブーと私はまだ埋まっていないシーンのシールを他の子供と物々交換してコンプリートし、ガンダムのストーリーの大筋を名シーンの数々と共に知ることができた。
 当時私たちの住む地方では、まだビデオ録画がさほど一般化していなかった。
 初回放映時不人気だった「ガンダム」のストーリーは、プラモデルに付属している断片的な解説や、こうしたダイジェスト情報を元に、子供たちの間に広まっていったのだ。
 確か、プラモデル→断片的な情報→再放送→映画化というような、情報の伝播の仕方だったと記憶している。

 ガンプラの応募券が当りとして入ったチョコも、同じような理屈である「コツ」があったのだが、こちらはバンブーだけでなく他にも気づいた子供がいたようで、すぐ噂になってあまり有利に進められなくなってしまった。

「人間がやってることには必ず何か攻略法がある。無いと思うのはまだ見つけてないだけ」

 そんな風に、バンブーはよく言っていた。
 今でも時々その言葉を思い出す。
(つづく)
posted by 九郎 at 23:55| Comment(0) | TrackBack(0) | サブカルチャー | 更新情報をチェックする