ちょっと興味があって「演歌師」について調べている。
手持ちの資料から関連事項を覚書にしておきたい。
調べているのは「演歌歌手」ではなく「演歌師」である。
現代歌謡の一ジャンルとしての演歌の源流であり、明治から昭和にかけて流行した大道芸人の中に、演歌師という人々がいたのだ。
以前にも簡単に紹介したことのある、カセットテープ版及び書籍版の「大道芸口上集」に、バイオリン片手に露天で唄い続けて60年という演歌師・桜井敏雄の、歌と口上が収録されている。
●カセットテープ版「大道芸口上集」(上)(下)
●書籍版「大道芸口上集」久保田尚(正・続・新版)
カセットテープ版に実演の歌として収録されているのは以下の曲。
●「スカラーソング」(バイオリン伴奏)
往年の演歌師が大道で客寄せに歌っていたという曲。
●「ダイナマイト・ドン」「オッペケペ節」(伴奏無し)
明治初期から中頃、発祥期の演歌。
当時自由民権運動を展開していた「壮士」が、当局の弾圧により演説による政治活動が制限されたため、大道で歌による主義主張を始めた。
演説風の歌なので「演歌」と呼ばれ、音楽性というよりも熱血、情感をこめて歌い上げる要素は今でも継承されているという。
●「金色夜叉」「(曲名不明)」(バイオリン伴奏)
時移り政情が安定期に入ると、政治的な主義主張から時事風俗中心、今でいう週刊誌ネタを扱う歌が多くなっていったという。
その後、大正昭和と時代が下る中で、ラジオ放送の開始、レコードの発売等により、次第に演歌師は大道に居場所を失い、花街の流しへと姿を変えていく。
そんな中でも時事小唄として断続的にヒットは生まれたという。
●「復興節」(バイオリン伴奏)
●「のんき節」(バイオリン伴奏)
書籍版はテープと多少の異同があるが、ほぼ同内容の解説、歌詞が収録されている。
久々に聴きかえしてみると、発祥期の「演説風の歌」が物凄く良い。
反骨精神、批判精神にあふれていて、とくに「オッペケペ節」にはリズム感もあり、まるでラップのように聴こえる。
ちょっと吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」にも雰囲気が似ている。
かの曲が今聴くとラップに聴こえるということは、多くの人が指摘していた。
吉幾三自身は洋楽も聴きこんでいただろうから、あのリズム感は洋もの由来かもしれないが、こうして演歌師の歌声を聴いてみると、むしろ演歌の先祖返りだったのではないかという気もしてくる。
手持ちのカセットテープ音源に収録されているのは、それぞれの曲のほんのさわりだけなので、ちょっと他の音源も渉猟してみたい誘惑にかられる。
明治初期の「壮士演歌」以前にも、放浪芸の内に「世直し歌」の系譜は連綿とあり、一揆の原動力となった例もある。
●『「世直し歌」の力―武左衛門一揆と「ちょんがり」』五藤孝人(現代書館)
反骨精神をリズムやメロディーに乗せる歌い手は、時代を超えて不滅だ。
今は亡き忌野清志郎もそんな歌い手だったし、昨年少しだけお話させていただいたことのある川口真由美さんも、間違いなくその系譜に連なる人だろう。
演歌師。
かなり「縁日草子」好みのテーマである。