80年代初頭のガンプラブーム当時、多くの子供たちがそうであったように、私はプラモ先行のガンダムファンだった。
不人気で打ち切りになった本放送はもちろん見ておらず、プラモデルに付属した簡単な解説や、ケイブンシャの「ガンダム大百科」等でストーリーの概要を知った。
当時はまだ動画配信はおろか、ビデオ録画すら一般化していなかったので、はじめのうちは劇場版のTVCMで断片的に流れる映像だけが、ほとんど唯一の「動くガンダム」だったのだ。
だから映像や音楽については、後発の劇場版の方に先に触れていたことになる。
劇場版は三作とも主題歌に恵まれていて、けっこうヒットしていた。
第一作の主題歌「砂の十字架」は、谷村新司の楽曲を当時まだ無名だったやしきたかじんが歌っていて、のちにその経緯を元にしたトークが持ちネタになっていた。
第二作の「哀戦士」と第三作の「めぐりあい」もかなり売れて、アニメソングが一般の歌番組にまで頻繁に登場するケースのはしりになった。
ガンダムは、内容やメカニックデザインだけでなく、アニメソングの改革でもあったのだ。
なぜそんなことが可能になったかといえば、映画が大ヒットしたことはもちろんだが、主題歌自体が「普通に聴ける良い曲」だったことも見逃せない。
ロボットアニメの主題歌なのにロボットの名前を連呼せず、歌詞はストーリーや世界観に即しながらも、作品から離れて曲単体でも十分鑑賞できるクオリティになっていたのだ。
先に劇場版の主題歌を聴いてしまっていたので、ようやく再放送でTV版を視聴した時には、逆の意味で驚いた。
主題歌「翔べ!ガンダム」が、あまりにもベタベタのロボットアニメソングだったのだ。
この曲はこの曲でTVアニメの主題歌としてよくできており、思い入れのある人も多いだろう。
だから決して貶める意図はないのだが、劇場版主題歌とは全く「方向性」が違っていたことは確かだ。
歌詞の中に「機動戦士ガンダム」という番組名ががっちり入っていて、アップテンポで勇気を鼓舞するような曲調は、ロボットアニメの主題歌としては王道中の王道だ。
ただちょっと気になるのは、曲の中で「ガンダム」の名は連呼されているものの、アニメの内容と歌詞の内容がほとんど無関係になっている点だ。
関連する記事中でも度々述べてきた通り、アニメ「機動戦士ガンダム」は、単純に闘志を燃やす内容ではないし、単純に巨大な敵を討つ内容でもないし、単純に正義の怒りをぶつけるような内容ではなかったのだ。
歌詞には「井荻麟」名義で富野監督自身もクレジットされているので、一応この歌詞は「監督公認」ということになるだろう。
なぜこのような乖離が生じたのか、大人になってみると、色々妄想が掻き立てられるところだ。
一つ考えられるのは、歌詞を書いた時点では、タイトル以外に表にできることがあまりなかったのではないかということだ。
TVアニメの主題歌は、当然ながら第一回放映分が完成するかなり前から制作が進められていなければならない。
今でこそ全く新しいリアルロボットアニメの始祖としての地位が確定した「ガンダム」だが、企画の初期段階では、純然たる子供向けのロボットアニメの中の一つとして話が進んでいたはずだ。
作り手の「革新的で枠に収まらない」志の部分は、スポンサーやTV局に対しては、むしろ隠しておきたかったのではないだろうか。
――アニメの内容になるべく触れず、子供番組の主題歌としての形はきっちり整った歌詞をでっちあげろ!
今あらためて歌詞を眺めてみると、そんな意図すら感じられてしまうのは、私が汚れっちまったおっさんであるせいだろうか(笑)
露悪的な表現をすれば、金主をだまくらかす方便として書かれた歌詞ではないかという妄想が湧いてくるのだ。
保守的なスポンサーの意向と格闘しながら、ガンダムのスタッフはやりたいことを貫いた結果、視聴率の不振から一度は打ち切られてしまう。
それでも奇跡の復活で劇場版は空前の大ヒットとなり、副産物としてガンプラという文化まで生み出してしまう。
内容と全くそぐわない歌詞の主題歌は、劇場版の制作とともに変更し、広く一般にヒットさせてしまう。
もちろん全てが作り手側の「計算通り」であったはずはなく、そこには「時代の要請」と呼ぶほかない不確定要素が大きく関与したのだろう。
結果的には、作り手が初期に企てたかもしれない「嘘や方便」は、予想外の商業的なヒットによって免罪された。
ある意味、これは「完全犯罪」ではないかと思うのだ。
あまり同意は得られないと思うが、ある時期から私はTV版の主題歌「翔べ!ガンダム」を聴く時、「これは連邦のプロパガンダではないか?」と解釈するようになった。
噂の天才少年パイロットが駈る最新鋭の機体の活躍を宣伝し、地球連邦内の戦意高揚を図るために作られた曲を仮想するなら、まさにこんな曲ではないだろうか?
低年齢向けのサブカルチャーの商業的ノウハウは、技術としては政治的プロパガンダの手法とほぼ一致しているのだ。
アニメ「機動戦士ガンダム」はその内容によって、小学校高学年以上の子供に、アニメソングに対する批評眼までインストールしてしまう作品だったのだ。
TV版や劇場版「機動戦士ガンダム」の主題歌、挿入歌をあらためて味わってみたい場合は、以下のCDがよくまとまっている。
曲間にアニメの名シーンの音声が挿入されているのがまた素晴らしい。