80年代初頭発売の旧キットから、ジオンの水陸両用MSシリーズ第四弾、1/144ゾックの作例紹介である。
●1/144 MSM-10 ゾック
定価600円!
今の感覚だとこれでも十分安いのだが、ガンプラブーム当時はとんでもなく割高に感じた。
何しろ主役機ガンダムの300円がスタンダードな値段設定のシリーズである。
600円と言う定価は、1/144のMS単体では最高額で、他にはジオングとガンタンクしかない。
ジオングは主人公アムロの永遠のライバル・シャアの乗機で、ガンダムと相討ちになったのが印象的な「ラスボス」だ。
そしてガンタンクは「連邦のV作戦」の僚機で、TVシリーズを通じてガンダムの支援機として活躍した。
この二機なら、サイズの大きさから多少高くなっても納得だし、私も子供の頃、両方とも作った。
しかし、ゾックは……
変なのが揃っているジオンの水陸両用MSの中でも、飛び抜けてヘンテコである。
今現在、絵描き目線でデザインを見ると、他の水陸両用と同じく、魚類や甲殻類や爬虫類、昆虫等の水棲生物の形態をうまくミックスし、さらに「潜水艦」というミリタリー要素まで盛り込んでいるのは、素直に凄いと思える。
そしてこのデザイン、ほとんど富野監督が描いたスケッチそのままである。
監督、凄い!
いくら変なデザインでも、「作中でガンダムを苦しめた強敵」というストーリーがあれば、多少高くても購入意欲は湧いただろう。
しかし、ゾックの場合は限りなく「一発ギャグ」に近いMSだったのだ。
当時の記憶を元にTVアニメ作中の「活躍」を再現してみると、以下のようになる。
(多少記憶違いはあるかもしれないが、大筋では合っているはずだ)
ホワイトベースを追撃するシャアの部隊に、水陸両用の試作MSであるゾックが補給される。
およそ身動きできそうにない形状に、疑問を感じるシャア。
ゾックと共に配属された操縦士は、戦艦並みの強力な火力性能を力説する。
ジェット噴射によるジャンプ移動や、素早いモノアイの動きをアピールして見せるが、シャアの疑問は晴れないままだ。
そして実際の戦闘になってみると、ゾックはその火力を発揮する間もなく、ガンダムのビームライフル一発で沈んでしまう……
登場するのはほんの数シーンで、演出上も完全に笑かしにかかっている「ネタ扱い」だったと記憶している。
私を含めた当時の子供たちのゾックの印象は、「目の動きが素早いだけが取り柄のやられメカ」だったのだ。
そのゾックが、1/144ガンプラ最高額!?
ちょっとありえないっす!!
ガンプラにハマり切っていたブーム当時ですら、小遣いの乏しい小学生は(少なくとも私の交友範囲では)手を付けていなかった。
主に買っていたのは、たぶんシリーズコンプリートを目指すような年長のファン層ではなかったかと思う。
よって、今回が私の「人生初ゾック」である。
ゾックの背後に「磯野家先祖代々」みたいに水陸両用仲間が描かれた箱絵をしばし眺めた後、中身を確かめる。
箱を開けると、そこにもうゾックがいる。
前後に豪快に唐竹割りになった胴体パーツは、1/144ガンプラの中でも最大クラスだ。
この二つを貼り合わせただけでも、誰がどう見てもゾックが出現するだろう。
モナカキットの中のモナカキット。
キング・オブ・モナカである。
モノがゾックだけにネタっぽく紹介しているけれども、形状自体は極めて良好で、今の眼で見てもよくできている。
さすがブーム当時の最後発モデルである。
そのまま組んでも良かったのだが、今回はけっこう改造してしまった。
実は二年近く前の私のプラモ再起動の初期に作り始めたのがこのゾックで、その時はまだ「素組み、筆塗り」のスタイルが定まっていなかった。
昔の悪い癖で切り刻んでしまい、袋小路入り込みかけていたのだが、他の旧キットを素組みするうちに吹っ切れ、この度やっと二年越しで完成させることができたのだ。
塗装前の状態で、改造個所を紹介しておこう。
足元から見ていこう。
まず市販の関節パーツで足首の左右スイングを加えることで、開脚と接地を改善している。
そしてウエストの部分で一旦切り離し、中に関節パーツを仕込むことで、胴の回転、前後スイングが可能になった。
さらに、モノアイレールを含む頭部(いわゆる「頭」じゃないけど)を一旦切り離し、中にガシャポンカプセルを収納することで、モノアイ周辺に立体感を付けた。
まあ、やっただけのことはあったけれども、我ながら「なぜゾックにそこまで」という感想は残る。
素組みした場合からそれほど外見が変化したわけでもないので、正直、いらん改造だったかもしれない(笑)
不必要な改造とは言いながら、色々いじってみたおかげで、ゾックと言うヘンテコ一発ギャグMSに感情移入はできた。
私の絵や物作りに何らかの取り柄があるとするなら、それは技術面ではなくて、「役作り」「感情移入」という制作プロセスにある。
改造しながら深く妄想してみた結果感得したのは、戦果を挙げられなかった試作MSの悲哀と言うか、思い入れたっぷりだった操縦士への共感と言うか……
頭の中で中島みゆきの歌声を再生しながら、いつものごとくつや消しブラックからのアクリルガッシュ筆塗りである。
アニメの設定色を踏襲しながら、彩度を落とし、筆跡を活かしながら明暗を付けていく。
デカくて表面積が極めて広いので、普通に一色で塗るだけでは間延びしてしまうのだ。
今回マーキングは無し。
全体に明暗を付けた時点で「十分いい感じ」だと判断した。
絵でもなんでもそうだが「やりすぎ」は後悔することが多い。
時間を置いて眺めながら、「ほどほど」とか「引き際」の見極めが肝心だ。
ゾックのデザインの特徴は「前後対称」で。前から見ても後ろから見ても同じ姿になっている。
モノアイパーツが二つ付いていたので、今回は前後で別位置に接着してみた。
けっこう「表情」ができる。
腕関節はキットのままでもかなり可動が多い。
最後ににジオンの水陸両用MSシリーズ集合写真。
ゾックは頭一つ大きく、圧倒的なボリュームだ。
他のMSに比べてあまり模型化の機会に恵まれていないゾックだが、現行のHGUC版では発売されている。
ただ……
●HGUC 1/144 MSM-10 ゾック
定価で2000円超え!?
旧キット換算だと、1/144ガンダム7個分以上!?
憧れだった1/60ガンダムが買える値段!?
デティールや可動充実、色分け完璧なのは分かるが、あのゾックに(以下略)
ともかく、アニメに登場するジオンの水陸両用MS1/144旧キットシリーズ、これにてコンプリート!