数限りない「終末」の物語が紡がれ、80年代に入ってからは、その元祖とも言いえる67年作「幻魔大戦」が、角川アニメ第一作として劇場公開された。
●劇場版アニメ「幻魔大戦」
83年公開。キャラクターデザインは大友克洋。
TVコマーシャルでは毎日のように「ハルマゲドン接近!」という宣伝文句が繰り返され、この言葉が日本の日常に定着するきっかけとなった。
しかしこの頃になると、「終末」の物語自体は既に飽和状態になりつつあった。
既に70年代から、一部の先進的な作家はカタストロフ後のサバイバルを描き始めていたが、そうしたテーマが本格的なブームになったのは80年代に入ってからのことだ。
無法地帯の荒野を、武装集団が改造車やバイクで疾駆する「終末後のイメージ」を創出したのが、79年、81年、85年に順次公開された豪映画「マッドマックス」シリーズで、とくに第二作は後のサブカルチャーに多大な影響を与えた。
日本でその直接の影響下にありながら、「一子相伝の最強拳法」という独自のアイデアを加えて描かれたのが、マンガ「北斗の拳」である。
●「北斗の拳」武論尊/原哲夫
83〜88年、週刊少年ジャンプ
サブタイトルに「世紀末救世主伝説」とある通り、終末後の混迷に再び秩序をもたらすヒーロー像、それまでの少年マンガとは一線を画すリアルなバイオレンス描写が鮮烈だった。
少年誌における「北斗の拳」と同時期、雑誌連載マンガで「終末後」を描いた代表例が、以下の二作品である。
●「AKIRA」大友克洋
82〜90年、週刊ヤングマガジン
88年、劇場版公開
●「風の谷のナウシカ」宮崎駿
82〜94年、アニメージュ連載
84年、劇場版公開
バイオレンス描写の「北斗の拳」、細密な未来都市風景を描いた「AKIRA」、「〜ナウシカ」の生物的デザインは、その後のビジュアル表現に多大な影響を及ぼし、一変させたと言っても過言ではない。
80年代に描き起こされたこの三作以降、雑誌連載マンガは飛躍的に作画密度を増していくことになる。
青年誌連載の「AKIRA」、アニメ誌連載の「〜ナウシカ」と比較すると、少年誌連載でTVアニメにもなった「北斗の拳」は、読者の数や年齢層だけで考えれば、影響が最も大きかったことだろう。
原作/作画ともに、主人公の「世紀末救世主」ケンシロウの生き様に仮託しながら、真摯に「終末後のサバイバル」を描き切った。
中でも一人のヒーローだけに救済を背負わせることの矛盾・危険がきちんと描かれていることは特筆される。
北斗神拳の長兄、世紀末覇者ラオウとの「史上最大の兄弟喧嘩」を第一部とするなら、それ以降の「引き伸ばし」は蛇足であったと感じる読者は多数派だろう。
しかし、第二部ではケンシロウを慕っていた少年少女バットとリンの成長が描かれ、「主役交代」も試みられたふしがある。
その「ポスト救世主」への試行は、読者アンケートという枷のある大ヒットマンガの中では必ずしも成功しなかったようだが、物語のラストではバットとリンは完全にケンシロウから巣立ち、自らの人生を強く歩むようになる。
どう取り繕っても「暴力のヒーロー」であるケンシロウは、最後には一人旅立ち、暴力の荒野で野垂れ死にする道を選ぶ。
人気商売の週刊少年誌連載を、このようなヒーローの葬り方まで到達させたことには、作者コンビの作家的良心を強く感じるのである。
そして、79年〜80年に放映され、TVアニメの世界でリアルロボット革命を起こした「機動戦士ガンダム」も、設定上は「終末後」を思わせる作品だった。
ジオン軍による「コロニー落とし」戦術は、オープニングでさらりと語られ、本編で直接触れられることは無かったが、数十億人単位の人間が死に、地球規模の環境破壊も起こっており、まさにカタストロフであった。
その後の作中で描かれた戦闘は全て、大規模な破壊に恐怖したジオン、連邦の両陣営が、互いに条件闘争するための「小競り合い」であったと言って良い。
幾多の作品で描かれた「終末後」のイメージは、年若い読者が陥りがちな「破滅願望」「リセット願望」に対し、特効薬と言えないまでも、一定の歯止めをもたらしたのではないだろうか。
どんな形でカタストロフが起ころうと、それで全人類が「綺麗に終われる」「楽になれる」わけではなく、むしろ今よりはるかに過酷な弱肉強食のサバイバル世界が待っているのだ。
「それでも今の退屈な世の中よりはマシ」
そんな受け止め方はあるにせよ、「決して楽には死ねない」というイメージは、刻印されたのだ。
80年代サブカルチャーの「終末克服法」では、もう一つ興味深い方向性があった。
それは「終末」自体を壮大なネタとして、お祭騒ぎに転化してしまおうというもので、代表例として「聖飢魔U」の活動があった。
●聖飢魔U
82年結成、85年デビュー。99年解散。
地獄から世界征服の使命を帯びて地球デビューした本物の悪魔であり、ヘビメタバンドの姿を借りた宗教団体であると自己規定し、アルバムを「教典」、ファンを「信者」と呼ぶ活動スタイルで人気を博し、89年末にはNHK紅白歌合戦にまで登場してしまった。
リーダーであるデーモン閣下の、虚実の狭間を変幻自在に遊ぶ知性がもたらした影響もまた大きい。
聖飢魔Uが演じたのは、「終末思想を持つ危険なカルト教団」の相対化に他ならず、お笑いを交えた表現の形をとりながらも、実はかなりシリアスなテーマを含んでいたのである。
(続く)