2017年11月27日

黒い本棚2

 一口に「怖い本」と言っても、そのジャンルは様々だ。
 現在なら怖さの種別にホラー、サスペンス、オカルトなど細かく嗜好が分かれたりすると思うが、80年代以前の時点では、そのあたりのジャンル分けはさほど明確ではなかったと記憶している。
 あと、これは「怖い本」に限らないが、虚実の匙加減で言えば、以下のような段階が考えられるだろう。

1、純然たるフィクション。
2、実際の出来事や体験を元にしながら、あくまでフィクションとして描かれた作品。
3、実録と称したフィクション。
4、実録の体裁で、一部フィクションも交えた作品。
5、純然たる実録。

 オカルトテーマを論じる時、この「匙加減」がけっこう問題になる。
 たとえばスプーン曲げなどの超能力ネタで言えば、ミスターマリックの「超魔術」は1〜2の「フィクション」の分類になるだろう。
 表現形態は超能力っぽく見える演目だが、演者自身も観客も完全に「トリックである」という前提で楽しんでいる。
 70年代のスプーン曲げブームの立役者であるユリ・ゲラーは、3で「トリックを超能力として客に見せた」ケースだ。
 その「売り方」をエンタメの範囲内として許容できるかどうかで、評価は分かれるだろう。
 日本におけるスプーン曲げの第一人者であるKさんの場合は、ちょっと微妙なものを含んでいる。
 私は一度だけ、とある機会に至近距離で「スプーン折り」を見、少々お話を聞かせていただいたことがある。
 その時の印象や、以下の本の詳細な取材を読んでみたところでは、おそらくKさんご自身としては、トリックでスプーン曲げをやってはいないと感じる。


●「職業欄はエスパー」森達也(角川文庫)

 少年時代の過酷なTV番組収録の中で、トリックを使ってしまったことがあるのは事実で、ご本人も認めているが、決してそれ「ばかり」ではなさそうだ。
 ただ、トリックでやっていないその現象には、「超能力」以外の解釈もあり得るはずで、このKさんのケースを、先の分類の「5、純然たる実録」と言い切るには、ややためらいがある。

 話を「怖い本」に戻すと、このジャンルには「3、実録と称したフィクション」がけっこう多い。
 一応実話を元にしていても、恐怖感を煽るためにかなり脚色し、ほとんどフィクションと化すことは多々ある。
 また、不出来なフィクションに手っ取り早くリアリティを付加する手段として「実録詐称」することもあるのだ。
 その場で楽しんだらお終いのエンタメであれば、こうした「詐称」も罪はない。
 しかし、霊感商法やカルト宗教の勧誘手段に使われると「悪質」ということになる。

 実話とフィクションの狭間を行き来しながら、それでも上質のエンタメとして成立しているオカルトマンガの嚆矢が、70年代前半、ほぼ同時に週刊連載された、つのだじろうの代表作二作だ。


●「うしろの百太郎」73〜76年、週刊少年マガジン
●「恐怖新聞」73〜76年、週刊少年チャンピオン

 私が内容を理解できる年齢に達した80年前後の時点でも、本屋の棚には現役で並んでいて、子どもたちを恐怖のどん底に叩き落し続けていた。
 主人公に強力な守護霊がついている「うしろの百太郎」の方は、いくら怖くても安心感があった。
 一方「恐怖新聞」は、主人公が「ポルターガイスト」に憑依され、最後まで除霊できないままに終わる救いのない展開で、本当に怖かった。
 先の分類では「2」にあたり、あくまでフィクションではあるけれども、作品に盛り込まれたオカルト情報・知識自体は出典のある「実録」で、作品にリアリティを持たせていた。
 このあたりの虚実の匙加減、リアルな描写は、同作者の直近のヒット作である「空手バカ一代」で体得したものかもしれない。

 実録を交え、リアルさを売りにしたフィクションには、常に「読者が真に受ける」というリスクが付きまとう。
 ましてや子供向けマンガのヒット作であり、作者のつのだじろうは霊や超能力が「実在する」というスタンスで描いている。
 当時もそれなりに批判はあったはずだが、今読み返してみると、非常に「節度」の感じられる描写になっていると思う。
 ブームだった「コックリさん」など、遊び半分で霊を扱うことや、金儲け目的のインチキ宗教に対してはかなり批判的に解説している。
 善悪の基準はオーソドックスな倫理で貫かれていて、決して逸脱することはない、ある意味「真っ当」な少年マンガである。
 この世の出来事全てが科学で解明できるわけではない以上、オカルトというジャンルの需要が尽きることはないし、一定割合でハマる人はハマる。
 筋の悪いものに最初に出会うのは良くないので、その点つのだ作品は、私が子供時代に出会った「オカルト」としては、非常にバランスのとれたフィクションだったと思うのだ。
(続く)
posted by 九郎 at 21:59| Comment(0) | サブカルチャー | 更新情報をチェックする