終戦の日という表現にはずっと違和感を持っている。
本日は「敗戦の日」だ。
70年以上前、政治力・外交交渉の敗北から日本が開戦に追い込まれ、多くの国民を失い、国土を灰塵に帰した後、敗戦が確定した日だ。
戦争の真実は勇ましげな戦記だけでは理解できない。
旧日本軍の大半は、ろくな補給もなされないままに、何の実効性もない精神論で追いたてられ、戦闘行為以前に飢えと病に倒れ、命を落としていった。
そうした悲惨な現実は、実際に南方戦線に兵士として出征し、片腕を失って帰ってきた水木しげるの作品の中に、多数描き残されている。
●「総員玉砕せよ!」(講談社文庫)
●「水木しげるのラバウル戦記」(ちくま文庫)
●「ねぼけ人生」(ちくま文庫)
水木しげるは多くの自伝的な作品を描いているが、中でも定番ともいうべき一冊がこの「ねぼけ人生」だ。
故郷である境港、その習俗のエキスパートである「のんのんばあ」に子守をしてもらった幼児期から、水木しげるの「妖怪人生」は始まっている。
太平洋戦争に向けて徐々に窮迫する世相、南方戦線への出征、片腕を失った顛末など、昭和史の貴重な証言になっており、まさに今、読むべき内容と言える。
特筆すべきは、ラバウルの戦場での現地の人々との交流の記録だ。
ろくな補給もなく、玉砕前提の戦場で兵士の大半が餓死、病死していく中、水木しげる本人は現地人の間で「大地母神」のように慕われるおばあさんに気に入られ、辛うじて命をつなぐ。
地獄の戦場のすぐ隣には、天国のような自然と共に生きる「土の人」の世界があったのだ。
戦争が終り、すっかり気に入られた水木は村人たちに引き留められるのだが、上官に説得され、再び返ってくることを約束して日本に帰国し、やがてマンガの世界に飛び込むことになる……
本書「ねぼけ人生」は人気の高いマンガ作品ではないけれども、水木しげるの作品世界に含まれる要素が全て詰まった、代表作と言える一冊である。
先に紹介した中沢啓治「はだしのゲン」とともに、これらは今後もずっと長く読み継がれるべき作品だと思う。
戦後七十年を越えてなお、我が祖国ニッポンは相も変わらず政治は無策、外交交渉は貧弱、国民に補給は与えず無意味な精神論ばかり押し付ける国であり続けている。
このような状態で戦争をやれば、次も必ず負ける。
国民目線から見れば、負ける戦争は決してやってはいけないのだが、積もり積もった失政のつけを戦争でチャラにしようと目論む奴等は、着々と準備を進めているのである。