しばらく前、本当に遅ればせながら、サン・テグジュペリ「星の王子さま」を、人生初めて通読した。
最初は一番スタンダードなものをと、図書館で岩波書店の従来のハードカバー版を借りて読んだ。
星の王子さま
やっぱりというか、本当に良い本だったので、手元に一冊置きたいと思い、同じ岩波書店から2000年に発行された「オリジナル版」を入手し、読み比べてみた。
色々感じる所があったので、まとめてみたいと思う。
以下、それぞれ「旧版」「オリジナル版」と表記する。
訳:内藤濯(ないとう あろう)であることは共通。
●旧版
・1962年発行 1972年改版発行
・22cm×15cm
・縦書き右開き
・「訳者あとがき」有り
●オリジナル版
・2000年発行
・18cm×11cm
・横書き左開き
・フレデリック・ダゲーの「まえがき」有り
・挿絵が作者による「原画」により近い
旧版と比較して、挿絵に限って言えば、原画の色の濃淡や、描線の細かなニュアンスは、確かにオリジナル版の方が再現されているようだ。
しかし、単純にオリジナル版が旧版の上位互換かというと、そこは好みが分かれる所だと思う。
まず、版型が旧版の方が2倍近く大きいので、絵も文もはるかに見やすい。
そして印刷設定の違いからか、オリジナル版の挿絵は全体にやや黄色味が強く、私の好みでは旧版の色合いの方が落ち着いていて良いと思う。
何点か、旧版でカラーだった挿絵がオリジナル版でモノクロになっているケースもある。
何よりも、旧版は日本における不動のスタンダードとして、既に多くの愛読者を獲得しているという現状がある。
新旧の最大の違いは、挿絵の異同というより、縦書き右開きから横書き左開きへ変わっていることではないかと感じる。
日本語版の元になった仏語版や英語版はもちろん横書き左開きなので、オリジナル版はそれに即した本作りと言うことになる。
同じ挿絵でも、右開きと左開きでは「読者の感じ方」に違いが生じる。
縦書き右開きの本の中では、読者の視線が順に左側に移動していくことになるので、挿絵の中の時間経過も左側に進行する。
横書き左開きでは本の中の時間経過が逆方向になる。
挿絵の中の「星の王子さま」は左向きで描かれていることが多い。
この絵を旧版の中で眺めると、読者の視線は絵の中の王子さまの顔の向きとシンクロするので、感情移入の対象は王子さまになりやすい。
同じ絵をオリジナル版(仏語版、英語版と同じ向き)で眺めると、挿絵の中の王子さまの視線は、読者の視線と相対することになる。
すると読者は、「向こうの世界からやってきた王子さま」と、向かいあって対話しながら読み進める感覚になり易い。
この縦横右左の違いの方が、挿絵の精度より、よほど読者の印象に影響するのではないかと思う。
作者の意図に、より忠実なのはオリジナル版。
旧版の方も、年少者も含めた日本人が読み易い一冊の本として、大変よくできている。
これから「星の王子さま」を読もうとするなら、以上のようなことを考慮して選ぶのが良いと思う。
●「星の王子さま―オリジナル版」
●「愛蔵版 星の王子さま」
●「星の王子さま」(岩波少年文庫)