blogtitle001.jpg

2019年06月14日

70年代サブカル前史:60年代TVアニメの誕生

 クリエイターにとっての20代後半〜三十代前半という期間は、デビューの初期衝動そのままに上り詰めた、最初のピークにあたっているケースが多い。
 わが日本の誇る「マンガの神様」手塚治虫の場合はどうだったか?
 主要な作品制作についてのトピックを挙げてみよう。

 52年(24歳)「鉄腕アトム」開始。
 53年(25歳)「リボンの騎士」開始。
 54年(26歳)「ジャングル大帝」完、「火の鳥」開始。
 56年(28歳)「ライオンブックス」開始。
(この頃から当時台頭していた劇画を意識し始める)
 61年(33歳)アニメ「ある街角の物語」制作開始。
 63年(35歳)国内初のTVアニメ「鉄腕アトム」放映開始。
 65年(37歳)国内初のカラーTVアニメ「ジャングル大帝」開始。
 66年(38歳)アニメ「鉄腕アトム」完。
 67年(39歳)雑誌「COM」創刊。
 68年(40歳)マンガ「鉄腕アトム」完。

 初期の単行本書き下ろしスタイルから雑誌連載に本格的に移行し、代表作「鉄腕アトム」の執筆開始から、日本初の30分枠TVアニメ化に至るまでの過程が、まさにその年齢にあたっているのがわかる。
 そもそも日本のTVアニメは、近未来SFロボットアニメから始まったのだった。
 手塚治虫によって、週一回30分のアニメ制作が可能であること、それがどうやらキャラクタービジネスに結びつくらしいことが実証されたが、それは多分に「マンガの神様」の天才と狂気に負うところが大きかった。
 手塚治虫は戦後日本のマンガ・アニメの生みの親であると同時に、現在の、とくにアニメ制作現場が抱える様々な問題点、劣悪な労働環境も生み出してしまった。
 作品そのものに含まれる要素で考えるなら、「鉄腕アトム」には後のロボットアニメに継承される根幹部分は全てそろっていた。
 内容的には人間とコミュニケーション可能な知能を持つ等身大ロボット、巨大ロボット・バトル、後発のロボットアニメは「アトム」の要素を受け継ぎ、一部を抽出したり、新たな要素を次々に添付することで発展したと言ってよいだろう。
 低予算手法としてのリミテッド・アニメの制作は、数々の有能な人材を輩出し、後の日本アニメの基礎を形成した。
 ビジネスモデルとしてのメディアミックス、キャラクターグッズ展開は、「ロボットモノ」の枠を超え、子供向けエンタメの世界に広く浸透していくことになる。

 アトムの成功の直後、さっそく二つの「競合作」がTVアニメ化された。
 マンガ「鉄人28号」「8マン」である。

●「鉄人28号」横山光輝
 マンガ「鉄人28号」の連載開始はかなり早く、「マンガ「鉄腕アトム」の開始から四年後の1956年、月刊誌『少年』で執筆が始まり、66年まで続いた。
 59年のラジオドラマ、60年の実写TVドラマの後、「アトム」のアニメ化と同年の63年10月、モノクロアニメ「鉄人28号」放送が開始された。
 原作マンガの執筆時期からアニメ放映期間(63〜66)を通じ、「アトム」の最大の競合作の趣がある。
 原点である「アトム」から巨大ロボット・バトルの要素を抽出し、リモコンで「人間が操る」という要素を加えることにより、「意思の無い兵器としての操縦型巨大ロボット」の流れが分岐した。
 この流れこそが、後の70年代巨大ロボットアニメの水源と言えるだろう。

●『8マン』(原作:平井和正/マンガ:桑田二郎)
 週刊少年マガジンの看板作品とすべく、編集主導で原作と作画が選抜され、1963〜65年まで連載された。
 TVアニメ版「エイトマン」は連載開始と同63年〜64年まで放映、先行する「アトム」「鉄人」とデッドヒートを繰り広げた。
 成人男性を主人公とした変身ヒーロー、世を忍ぶ仮の姿は探偵という構図は先行する「月光仮面」から受け継ぎ、「アトム」からはコミュニケーション可能な等身大メカニックの要素を受け継ぎ、さらに「人間と機械の融合」という要素を加えた「エイトマン」の創出した流れは、後のサイボーグテーマのマンガやアニメ、特撮作品に継承されて行った。

sh70-03.jpg


 60年代中盤、TVアニメの創成期に繰り広げられた激しい視聴率争いは、結果として手塚治虫の本業をも消耗させてしまった感はある。
 手塚治虫は本質的には「SF作家」であり、「鉄腕アトム」の物語は「人間に似たロボットを通した文明批評」の構造を持つが、人気の要素として強かったのはあくまで「ロボット・バトル」の部分だった。
 とくにアニメの「アトム」はバトル要素を増やさざるを得ず、手塚治虫が本来志向していたSF的な内容からは離れることが多くなった。
 そして同じSFマンガ・アニメの土俵上にある「鉄人」「エイトマン」だけでなく、60年代後半から70年代初頭にかけて他にも次々と台頭してくる子供向けエンタメ作品の奔流に、「マンガの神様」と言えども抗いがたく「低迷」の時期を迎えることになるのだ。
posted by 九郎 at 22:59| Comment(0) | 青春ハルマゲドン70s | 更新情報をチェックする