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2022年07月17日

ちゃんみな 美人/THE FIRST TAKE

 音楽は好きなのだが流行りは全然知らない。
 配信全盛の今時、過去にため込んだCD音源をあれこれ繰り返し聴きこむのがメインなのだが、ごくたまに今の音楽を耳にして思いがけずハマることもある。
 最近の例では、YouTubeで動画をを渉猟していて偶然観た「ちゃんみな 美人/THE FIRST TAKE」に衝撃を受けた。
 様々なアーティストが自曲をライブの一発撮りで演じるYouTubeの人気シリーズの中の一つである。



 泣いた。
 本当に凄いものを見たら涙ぐんで手を合わせてしまうものだが、普通に生きていてそんなに何回も無い、そんな音楽体験をしてしまった。

 しばらく聴き込み、隅々まで味わい、関連動画やリアクションも漁る。
 ボイストレーナーの皆さんが軒並み「もうこのまま流し続けた方がいいけど、仕方がないから何度も止めて野暮な解説するね。ごめんね」という紹介の仕方になっているのが、パフォーマンスの凄まじさを裏付ける。

 動画中の歌前の語りによると、この曲は歌い手「ちゃんみな」がデビュー時、17歳の頃に受けた、外見に対するバッシングの経験から書かれたという。
 歌詞の中でもその経緯については触れられており、今でも引きずっていることは、ひしひしと伝わってくる。
 叩きの原因として彼女の出自も関係しているらしいことを後で知り、胸が痛んだ。

 前奏が始まった瞬間、まだ歌い始める前から、彼女の表情にスッと「鬼」が宿るのがはっきり分かり、鳥肌が立つ。
 歌詞の中では繰り返し彼女が浴びせられたであろう心無い言葉の刃が、怨念のこもった声や表情とともにそのまま採録されており、その結果としての「狂った精神に才能が開花」というフレーズに戦慄する。
 あまり変な書き方はできないので注意しなければならないが、一般論として、また私の体験として、過大なストレスや暴力に晒された時、精神の安全弁が働いて「自分を分ける」ということはありえる。
 歌詞の視点が数行ごとに変わり、歌い手の声音が次々に変転するのは、恐らくそのようなニュアンスを含めた表現ではないだろうか。
 襲い掛かる嵐に心も体もバラバラに破壊されながら、その過大なストレスを飲み込んで強くなり、上手くなり、美しくなったのだ。
 負の感情をさらけ出し、ぶちまけながら、繰り返される「look at this(こっちを見ろ)」という言葉。
 もの創るというのはこういうことなのだ。

 しかし、そこまで自身の傷をえぐりながら、更に「その先」に進もうとしている掘り下げぶりが、また凄まじい。
 強く美しくなったことは、結局あのころの自分が切り裂かれた刃を、そのまま手に入れてしまっただけではないか?
 繰り返される「look at this」は、やがて哀しい響きを帯びてくる。
 歌は過去の心無い他者との戦いから、徐々に現在の自分との対峙になだれ込んでいく。
 プロとしてまとったキャラクターを一枚ずつ引き剥がした末に、太く力強い声の持ち主が現れて「あの彼女を助けなさい」と自分に命ずる。
 力を手にして本当にやるべきことは、かつての敵を殲滅することではなく、過去に傷ついた自分を救うこと、そして今現在似た境遇にある弱者を救うことなのだ。
 最後は獲得した歌唱力を全開にして自他の美醜を大肯定し、分裂した自分の過去現在未来を統合する境地まで到達する。
 歌い切った後、ふと力が抜け、はにかんだ年相応の可愛らしい笑顔になるのが素晴らしい。
 まだ二十代前半でここまで極めてしまったちゃんみなに、心からの賛辞を。

 誰しも心に「譲れぬ一線」はあるものだ。
 私の場合は元弱視児童にして、中高で虐待指導を受け、カルトに問題意識を持った絵描きである。
 いじめや差別、虐待、それに優生思想につながる動きには、自分の心の中に連鎖して巣食うそうした傾きも含め、生涯叛旗を掲げる。
 今回この動画を視聴して、
「あなたはあの子らを助けなさい」
 そんな風にちゃんみなに命じられたと受け止めたのである。 

 より深く鑑賞するために、関連動画も紹介しておこう。
 まずはTHE FIRST TAKE版より先行して公開されていたMV版「美人」で、こちらも凄まじい。
 私は遡って観たのだが、THE FIRST TAKE版はこのMVの「威力」を保ったまま、シンプルに刈り込んで先鋭化させたものだということが分かる。
 歌詞や映像の情報量がかなり多いので、様々に補完される。

 そして同じくTHE FIRST TAKEより、ちゃんみな「ハレンチ」という動画。
 ちゃんみなは基本的にラッパーなのだが、ジャンルを横断した多彩な歌唱力、表現力を持っている。
 先に紹介した「美人」を怨念渦巻く「裏」の顔とするならば、堂々たる「表」の顔として対になっている。

 ちゃんみな、今後も追っていきたい。
posted by 九郎 at 13:41| Comment(0) | TrackBack(0) | カミノオトズレ | 更新情報をチェックする