子供が成長するごとに、昨今の学校教育の変化を知る。
高校国語では評論が中心になり、とくに理系では選択の関係で小説をほとんど読まなくなると言う。
理系とは言え、文学軽視は反知性への第一歩であると考えるので、補完の意味でこの一冊を入手。
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●『名指導で読む 筑摩書房なつかしの高校国語』(ちくま学芸文庫)
我々からすれば中高生に「必須」と思える『羅生門』『夢十夜』『山月記』等の作品を、豊富な解説とともに読める。
小説編で取り上げてあるのは芥川龍之介、夏目漱石、中島敦、太宰治、森鷗外、魯迅。
随想編、評論編、詩歌編と合わせて、近代以降の日本を代表する作者・作品を、厳選して掲載している。
全編を通底するテーマは、やはり「日本の近代」ということになるだろう。
自力の産業革命や市民革命を経ないまま、武士階級内のクーデターから西欧文明を無理矢理接ぎ木した明治維新後の日本。
封建社会から「近代化」の使命を帯びていきなり西欧文明の真っただ中に飛び出した若い森鷗外、夏目漱石の戸惑いと苦闘は、思春期の若者の心の発達ともシンクロする。
続く随想編、評論編も読みごたえがある。
よく言われる「国語力」「読解力」は、普段から様々な話題を幅広く、文法的に正確に読み書きする習慣と能力だ。
(「話す、聞く」ではなく「読み書き」であるところがミソ)
中学生くらいまでは児童文学でもジュニア小説でも何でもいいから、好きな本をガンガン読んでいれば読解力は伸びる。
マンガでも、読んでいるのといないのとでは全く違う。
高校以上になるとそれだけでは歯が立たなくなるので、近代日本文学の書き言葉を読み、論説を読み書きする習慣をつけ、文字情報、論理、抽象概念で頭の中を再構築し、近代化する必要あり。
それは対面会話でのコミュニケーション能力とは、全く種目が違うのだ。
そして詩歌編。
この分野、昔からほとんど接してこなかったので、この機会に。
昔の高校現代文教科書で近代日本の主要作家を再読するうちに、文学史についてあまりに知らないことに気付いた。
とりあえずとっかかりだけでもと、うちにある高校生用の学参を開いてみる。
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●『早わかり文学史』出口汪(語学春秋社 中継新書)
文学史学習というと、国語便覧に載っているような解説と年表、図版だけでは、社会科の試験勉強のように覚えるしかない印象がある。
そこから一歩踏み込み、明治以降の文章表現の変遷を、一続きの物語として追えるのが良い。
便覧情報と個別の作家・作品解説への橋渡しと言おうか。
著者は現代文の受験参考書で有名だが、近代日本文学ファンぶりが際立つ一冊で、受験向けの「まとめ」が要所に挿入されているが、むしろ各作家・作品の紹介が楽しくてたまらない雰囲気が伝わってくる。
とくに鷗外と漱石については一章を割いて詳述してあり、高校生の頃『舞姫』や『こころ』の抜粋を読んだ時に持ったような違和感に対し、その原因を時代背景や作家の置かれた状況から解き明かしてくれる。
あらためて、近代日本文学を読み返したくなるブックガイドになっている。