子育ては自分の勉強のし直しの良い機会。
古典については、中高生くらいなら十分に読みやすい角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックスをよく開いている。
中国古典の入口として良かった三冊を紹介してみよう。
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●『論語』(角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックス)
古典を読む場合、どちらか言えば先に中国古典を読んだ方が良いように思う。
日本古典の書き手は、基本的に中国古典を学び、諳んじ、その下地の上に作品を成立させているからだ。
一冊目としては、『論語』がものすごく良かった。
あくまで抜粋であるが、有名どころはだいたい採録され、原文、書き下し文、平易な訳が掲載されており、音読にも向いている。
豊富な図とともに周辺情報まで含めた解説にページをとってあり、孔子入門、古代中国入門にもなっている。
読み進めるうちに古代中国のイメージが更新されるし、孔子やその弟子たちのキャラクターが生き生きと伝わってくる。
日本や中国の古典を学ぶ時、最初に『論語』を通っておくと、後世への影響が多大な儒教思想の出発点なので理解の基礎になり、「学ぶ」ということの姿勢が正される。
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●『孫子・三十六計』(角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックス)
理想を追う『論語』の教えを、国家間の戦争という避けられない現実の中で実践するためのリアリズム、その一つの解答が『孫子』ではないだろうか。
顕れ方は一見正反対だが、「表裏一体」と解釈するのもありだと思う。
日本史上の合戦譚を読み解く上でも非常に参考になる。
どうしても「情緒」で戦争をとらえがちな日本で、古代中国由来の身も蓋もないリアリズムの戦争を、徹底してやってしまった者が勝っている感がある。
戦上手で知られる源義経、楠木正成、雑賀孫一、高杉晋作あたりはたぶん似たようなタイプで、空気を読まずに兵法を徹底できる奇人たちだったのかなと思った。
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●『唐詩選』(角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックス)
こちらはあまり音読向きではなく、中学生くらいだと通読するのもかなりキツいかもしれない。
詩の部分はもちろん音読で楽しめるのだが、付してある解説部分が完全に書き言葉で、中国の地名や官職名がいっぱい出てくる上にほとんどルビ無しなのが結構つらい。
しかし頑張って通読すると、文章表現に関する中国文化の担い手がどういう人々であったのかが、じわじわ理解できてくる。
中国では長らく詩の作り手の主力は、先例を学び尽くして過酷な科挙を突破し、文書作成能力に優れた官僚であった。
そして多くの場合、官僚の中でも地位を上りつめた者ではなく、どこかで挫折したり不遇であった者が、優れた作品を残している印象がある。
中島敦『山月記』に描かれる李徴は、本書に採録されるような著名な詩人に届かなかった、「裾野」の中の一人であったのだなと、今更のように合点する。
中世以降の日本古典、明治以降の近代文学においても、「幼少から厳しい知的訓練を受けたエリート」という層は、書き手の主力であり続けたのではないだろうか。
科挙も近代日本の学校制度も、主要な目的の一つは「国家を担う文書作成エキスパートの養成」であったが、文学はそこからこぼれ落ちた徒花という見方もできそうだ。
国家に尽くすために選抜された若い知的エリートと、その枠からはみ出す個性・才能というのは、古くて新しいテーマなのかもしれない。