大雑把に言うと70年代半ば〜80年代半ばに小中高だった私は、「学習マンガ」の隆盛をリアルタイムで見てきた。
学研まんが『ひみつシリーズ』が次々に刊行され、そのうち小学館『少年少女日本の歴史』全20巻が登場した。
井尻正二/伊藤章夫『科学まんがシリーズ』もよく読んでいた。
古生物や生物の体の仕組みを扱った『いばるな恐竜ぼくの孫』『先祖をたずねて億万年』『ぼくには毛もあるヘソもある』『キネズミさんからヒトがでる』『ドクターカックは大博士』等、生物好きの当時の私の趣味にぴったりだった。
赤塚不二夫『ニャロメのおもしろ数学教室』がヒットしてシリーズ化し、『ニャロメのおもしろ宇宙論』『ニャロメのおもしろ生命科学教室』等が刊行されたのも同じ頃だ。
そうしたシリーズを楽しんで読みふけっているだけで、小学校の理科や社会程度なら全然苦労がなくなるという体験を積んだ。
他にも様々な形で「学習マンガ」は刊行されていたが、やはり実力のあるマンガ家がマンガとして面白く描いた作品が、「楽しんで読んだ結果が勉強にもなっている」という感じで良かった。
古典関連では横山光輝『三国志』の刊行が進んでおり、後に赤塚不二夫『まんが古典入門』全8冊も出た。
中高で古文漢文を習った時、「マンガでだいたいの内容や古典の世界観を知っている」という状態だったので、文法的なハードルがかなり軽減され、原文を楽しむことができた。
小学生の頃から読み込んだ学習マンガが大学受験の役に立つに至った、最初の世代にあたるだろう。
半世紀近く経った現在も、良質な「学習マンガ」は多数刊行されているが、今でも結局「実力のあるマンガ家がマンガとして面白く描いた作品」が良いことに変わりはない。
中国、日本の古典に関して言えば、以下のものが素晴らしい。
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●『史記』全11巻 横山光輝(小学館文庫)
私自身は中高生の頃は、刊行中だった横山光輝『三国志』か、前作『水滸伝』くらいしか中国古典のめぼしいコミカライズは無かった。
そして『三国志』は途中からマンガ的な演出を抑え、プレーンな「絵解き」にウエイトを置くようになり、横山光輝のキャリア後期の作風が固まった。
90年代から2000年代にかけて塾講師や家庭教師をよくやっていたのだが、横山光輝による中国古典の絵解きの中でも、『史記』は中高生の中国古典学習に向いているという意味では一番ではないかと思う。
(写真はその頃発売されたコンビニ版第一巻)
通読すると昔の中国人のものの考え方、社会の在り方、有名エピソードがこれでもかとインプットされてくる。
生臭く殺伐とした政治中心の内容だが、そうした「現実」を知っていればこそ、そのリアクションとして漢詩に描かれる内容も理解しやすくなる。
与党政治家、高級官僚、大企業経営者は、日本の戦国武将のエピソードばかり愛好せず、このマンガ版でもいいので今すぐ『史記』を読んでみてほしい。
自分たちが物凄く型通りに腐敗し、国を滅ぼしにかかっているのがはっきりわかることだろう。
日本古典については、素晴らしいコミカライズシリーズがある。
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●『まんが日本の古典』全32巻(中公文庫)
綺羅星のような実力派マンガ家で全巻固められた、空前絶後の奇跡のような日本古典のコミカライズシリーズ。
この水準で同種のシリーズが再び刊行されることは考えにくく、後世に遺る文化的業績になるのではないだろうか。
うちではコロナ禍初期のステイホーム期間に、親元から支援物資の一つとして全巻箱入りが届き、重宝している(笑)
もちろん興味のある作品を単品買いするのも良し。
このカテゴリ教養文庫では、中国・日本古典の入り口として角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックスを推しているが、その前段階としてマンガで内容や世界観を知っておくのも良いと思う。